夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

高い城の男/フィリップ・K・ディック

 

 

高い城の男

高い城の男

 

 

第2次世界大戦でイタリア・ドイツ・日本の枢軸国が勝利して、〜15年後のアメリカはナチスドイツと大日本帝国に占領されていて…というパラレルワールドディストピアなお話。戦後15年でナチスはさっさと火星までの宇宙開拓を始めているのも驚き!(もちろん脳内で映画「アイアン・スカイ」がイメージされます。)

主人公達は易占いをしたり、柔道、禅などなど日本の影響を受けざるを得ないアメリカ人やユダヤ人+日本人。そんな群集劇で物語は多面的に展開していきます。

話の中心軸は、「もしも逆にアメリカが戦争に勝利していたら」という小説『イナゴ身重く横たわる』が大ヒットしていて、その『イナゴ』の作家が住んでいると言われている山奥の要塞「高い城」をめざして旅をするヒロイン・ジュリアナでいいのかな。

現実ともしもの世界の境界が曖昧で、物語の中に「物語」が展開するというところが、村上春樹の『1Q84』にも似ていると感じました。

『未来医師』にも登場した歴史のif(もしも)とか、『電気羊』に続くであろうアジア風のごったがえした都市風景など、短編作家から長編作家へ円熟していくディックを味わえました。「高い城の男」は最高傑作と言われることもあるそう。確かに今までのディック作品よりも登場人物が深く描写されていて読み応えがありました。

中でもジュリアナが奔放で個性的で、かなり狂っていて、とても人間味あふれるキャラ。ずっと事務的な女性キャラばかりでしたが、こういう女性を描けるようになってきたのね。(初期から読んでいるのでしみじみ)

何か困ったらすぐに易占いに頼る主人公達。当たるも八卦当たらぬも八卦、江戸時代みたいだな。

 

最近になって『高い城の男』は米Amazonがテレビドラマ化したようです。(総指揮は、リドリー・スコットときた!)トレーラを見る限り映画かと思ったよ。

原作はそんなに登場人物が派手には動かなかったけれど、こちらはキャラクターをかえて、かなり走り回ってますね。面白そう!

ハリウッド映画に出てくる日本の描写は「うーん、おしいっ」感満載で、苦笑してしまうことが多いのですが、これはどうかな?

 


The Man in the High Castle Official Comic-Con Trailer ...

 

読みながら付箋を貼った部分は、ドイツのルドルフ大尉の独白

彼らの観点ーそれは宇宙的だ。ここにいる一人の人間や、あそこにいる一人の子供は目に入らない。それは抽象観念だー民族、国土。民族。国土。血。名誉。栄光。抽象観念が現実であり、実在するものは彼らには見えない。”善”はあっても、善人たちとか、この善人とかはない。

彼らは歴史の犠牲者ではなく、歴史の手先になりたいのだ。彼らは自分の力を神の力になぞらえ、自分たちを神に似た存在と考えている。それが彼らの根本的な狂気だ。

 彼ら=ナチスのことですが、ここまで言われたら、いくらナチスを猛反省しているドイツ人でも凹むわな〜。

彼らが理解できないもの、それは人間の無力さだ。おれは弱くて、小さい。宇宙にとってはなんの意味もない。宇宙はおれに気づかない。おれは気づかれずに生きている。神々は目につくものを滅ぼそうとする。小さくなれ…そうすれば、偉大なものの嫉妬をまぬがれることができる。