夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

一千億の針/ハル・クレメント

 

異星人と共生ものの元祖SF『20億の針』の続編。共生生活7年目のボブとアメーバー異星人"捕り手"のワクワクランド。しかしボブがなんか弱ってきたよ、母星にヘルプ!ボブを助けて!というお話。

相変わらず"捕り手"くんはアオガミ(CV森川智之真・女神転生Ⅴ』)で脳内再生され、少年ボブとますますイチャついてて良いですな〜。範囲の狭い小さな島内で物語が完結してしまい、一千億の星って?と盛大なタイトルに反していて、あまり盛り上がることなく終わってしまったのが少し残念でした。

物語の本筋とは別に、物語の舞台が植物を使って石油を製造する(カーボンニュートラル!)会社、太平洋燃料株式会社(PFI)が精油プラントを置くタヒチの小島という背景設定で、卒業後にPFIの社員に8年間は必ずなる契約で本土の大学に行かせてもらい、書籍代も出してくれて、学生が持ち帰った本で島内に図書館を作り、次世代の教育と生涯学習に力を入れて高い教育水準を維持しつつ、かつ、島の子ども達は毎日海で遊び、体を鍛えていてたくましいという未来ある軍艦島のようで、島の描写の方が面白かったです。

 

三体0球状閃電 /劉 慈欣

自分へのクリスマスプレゼントとして買って、お正月に炬燵で読みました。三体三部作より前に書かれて出版されたので、日本では刊行が逆。表紙絵に描かれている女性は智子ではないし、三体も出てこない。三体第一部の物理学者、丁儀が登場することで時系列的には前日譚なんですね。

初っ端、主人公の14歳誕生日に父が話す演説からもう面白いし、バースデーケーキを前にしていきなり球電が部屋に入ってきて、ちゅどーんな展開に目が離せなくなります。ゴリゴリくるなあ。

その "謎の自然現象" 球電の正体を解き明かして新兵器に転用したい林雲少佐が、これまた兵器LOVEクレイジーな女性で。劉氏の小説は本当にクレイジーな女性キャラばかりだな!大好きだ!

球電の正体も現実にありえなくもない…のか?と、妙に説得力があり、今まで読んできたSF小説の中で、いちばん『シュレディンガーの猫』についてわかりやすかった。大胆に動かすものが大きい(国とか物理とか)SFはいいね。

作中で主人公がWindowsXPのデスクトップ画面で感傷的になるシーンが好きでした。(原本は2004年刊行)

画面に広がる青空はほんとうに透きとおった青だし、草原の緑はまぶしいほど瑞々しい。眺めていると、デスクトップの風景は神秘的な異世界の光景で、この液晶画面はその世界に通じる窓なのではないかとさえ思えてくる。

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その後、怪現象に遭遇した主人公がこの画面を見て「空の青と草原の緑が上下に重なる怪しげな眼のように僕をにらんでいる」と恐怖を感じるのだけれど、確かに眼に見えてくるから不思議〜。

ベストSF2021/大森望編

2023年になるのに2021年のベスト版を読む。竹書房にお引越しした大森望編の年間SFベスト2冊目。わりとあっという間に本屋の棚から消えるので、買いそびれないようにしないと。どれも逸作で楽しめました。

 

■「この小説の誕生」円城塔

Google翻訳で翻訳を繰り返すと、だんだん別のものになっていくお話。翻訳のスキマから生まれるもの…面白いアイデア

多分、今の僕らにはこの程度の短い文章からはじめてらたどたどしく関係を進めていく必要があるんだろう。賢しらげに長文を振りかざしあい、ぼんやりとわかるようなわからないような言葉を投げあうよりも、


■「クランツマンの秘仏柴田勝家

論文形式のSF。柴田さんの仏教SF好きです!なんとなく京極夏彦っぽい。鉄鼠×魍魎の匣


■「人間たちの話」柞刈湯葉

偉大な発見をした科学者と甥っ子の家族の物語。壮大な宇宙スケールの話と、家族愛をしっかり描いていて、とてもいい読後感でした。

 

■「本の背骨が最後に残る」斜線堂有紀

華氏451度』で書物を丸暗記するブックピープルが出てきますが、あの設定の発展版。どちらの人間の暗記が正しいのか版重ね対決をして負けたら焚書(焼け死ぬ)。本人間残酷物語。

 
■「どんでんを返却する」三方行成

どんでんが何なのか謎だけど、借りたものを期限までなんとか返却する話。テンポが良いのでコミカライズして欲しい。すみません、ポストに返却します!なんだお前は!運命さ!で吹き出しました。笑いすぎてお腹痛い。

 

■「全てのアイドルが老いない世界」伴名練

電子書籍版の表紙絵が素晴らしいと著者がいうのでググりました。世界観が見事に一枚のイラストに現れていて素晴らしかった。アイカツ!が好きな人におすすめ。


■「あれは真珠というものかしら」勝山海百合

9ページの短編で、なんと豊かな奥深い物語を作れるのか。勝山さんは天才か!九年母がチンパンジーで、碩堰がトド?だとしたら修理亮はおさるのジョージか、ミッキーマウスかとか考えてしまいました。普通に人間ですよね。同級会できるといいね。

長編『厨師、怪しい鍋と旅をする』も、本当に面白いのでおすすめです!

 

■「それでもわたしは永遠に働きたい」麦原遼

脳活動を提供する朗動とか、SF作家はすごいことを考えるよね。


■「いつかたったひとつの最高のかばんで」藤野可織

不思議な物語です。確かに自分にしっくりくる鞄に出会うのは至難の業。ないなら作るわいと、ミシンで手作りしましたよ。

 

20億の針/ハル・クレメント

新年あけましておめでとうございます。ささやかな読書記録ブログですが、自分にとってはあれこれ活用できている奇跡のログなので、今後とも続けていきたい所存です。たまにお立ち寄りいただけると幸いです。本年もよろしくお願いいたします。

さて、お正月に読んだのはハル・クレメントの『20億の針』(1950年)。昭和の頃に児童SF選書で『星からきた探偵』や『宇宙人デカ』などのタイトルで出ていたらしい。私が通った学校の図書室にもきっと陳列していたのだろう。小中学で読んでいたらたまらん面白さだろうなと思います。宇宙からきた知的生命体が体内に寄生して…という話の元祖なので、ウルトラマン寄生獣真・女神転生Ⅴも全てクレメントのSFが原点なんですね。ほっほー。娘がゲームの『真・女神転生Ⅴ』にハマっているので、"捕り手"はアオガミの声で「少年、」って脳内変換してしまいました。

あらすじを書きますと、緑色のアメーバーみたいな"捕り手"に寄生された少年ボブは、同じく地球に不時着した"犯人"を探すことになります。ホシは誰に寄生しているのか?地球上にいる20億人(1950年当時は20億なのだ)の中から探し出すというお話。壮大な舞台設定にワクワクして、結局は小島の住人160人限定としょぼくなってしまうのですが、オチつくためにはしょうがない。

しかし体内に寄生する過程が、医学的にもしっかりと描かれているのが意外でした。すぐに意思疎通せず、時間をかけて地球人の思考や言語をマスターしていくとこも面白かったです。

難をいえば、登場人物の呼び名が、ファーストネーム、ミドルネーム、呼び名、あだ名とそれぞれあって混乱しました。かなり人が出てきてるようにみえるけど8人だけなんだよね。

 

 

時ありて/イアン・マクドナルド

廃業した古本屋の大量破棄処分の本の山から見つけた詩集『時ありて』。本に挟まっていた手紙の差出人を探し求めるうちに…というミステリー時間SF。

まず古本に挟まっていた手紙っていうのが、読者好きのツボをつく。自分が買った古本に挟まっていたのは、レシート、買い物メモ、手描き相関図とかかなあ。BOOKOFFは棚出しする時に本の帯や挟んである広告を捨てるのやめてくれないかなー。時を感じて好きなんだけど。とか思いつつ、まあ手紙が挟まっていたら、そりゃあ恋の始まりだよね(違う)

で、手紙の主トム青年は第二次世界大戦下のエジプトにいて、恋人へのラブレターを書いていて、相手は同じ男性でベン。BL展開!トムとベンの二人は様々な時代に現れてはいちゃつき、キスをして海が燃えあがり、待ってくれーと追いかけていく主人公もいつしか時間の迷宮に迷い込む。

時の旅人はこうあるべきっていうスタイルの紹介が、英国だなーって感じで好きでした。文章が綺麗でとても詩的なんだけど、FacebookポケモンGOが出てきたりして良き。

カバーを外すと、詩集『時ありて』の造本を模した表紙になっているそうですが、図書館で借りたのでカバーフィルムが貼られていて見れませんでした、残念。