夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

中国・アメリカ謎SF/柴田 元幸 小島 敬太 (編集, 翻訳)

 中国とアメリカのSFジャンルで、まだ日本に紹介されていない作家の短篇を、柴田元幸氏と小島敬太氏がセレクトして翻訳したアンソロジーアメリカ担当柴田氏のセレクトは設定が緻密で文章が固め、中国担当の小島氏のはユーモアが多く軽めだったのは選者の世代の違いもあるけれど、経済の勢いがある中国と不況が続くアメリカの社会情勢の違いも影響があるみたいで面白かったです。

 

■「マーおばさん」ShakeSpace(遙控)
会社から預かった試作機パソコン「マーおばさん」号は、本体に砂糖を入れて動かします⁈謎マシンのチューリングテストを行う僕と蟻のコロニーとのコミュニケーション。アホっぽいのに「生命の定義について」の説得力があって面白い。

 

■「曖昧機械ー試験問題」ヴァンダナ・シン
「マーおばさん」同様の謎マシンの話なんだけど、時間と空間が飛び飛びなので、よくわからず流し読み。曖昧機械だから雰囲気で感じていいかと。

 

■「焼肉プラネット」梁清散
謎の惑星に飛ばされ、そこは生きた焼肉の星だった。謎だー。筒井康隆っぽいなぁ。

 

■「深海巨大症」ブリジェット・チャオ・クラーキン
潜水艦で深海を潜って海棲生物を探すチームの話と男女のいざこざ。暗く狭い空間で近い人間関係に押しつぶされそうになったところで、どかんとでかい奴が来る。

 

■「改良人類」王諾諾
率先して遺伝子操作の研究開発をやっていそうな中国から、こういう警鐘を鳴らす若手作家のSFが出てくることに安心したり。多様性の大事さ。最近、映画「ガタカ」を観たばかりなので、同じテーマに感銘を受けました。

 

■「降下物」マデリン・キアリン
タイムマシンで500年後の未来に行ってみても世界は終わっているままという希望が見えないSF。久しぶりに故郷に帰ってみても、商店街はシャッター街のままみたいな。

 

■「猫が夜中に集まる理由」王諾諾
猫は偉い、猫は宇宙を救うために頑張っているというお話。そもそも自分は「シュレデンガーの猫」をよく理解していない…。

 

本屋さんで購入したのですが、封筒のおまけがついてました。「ねえねえ、謎SFってなに?」カード。POPとして使えということだったのか。白水社の販促品をいただきました。

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ねえねえ、謎SFってなに?

 

中国・SF・革命/ケン・リュウ他

売れに売れた『文藝』の中国SF特集を単行本化。中国SFといっても、作家陣は華僑や中華系アメリカ人と日本人じゃんと思ったり。でも大陸を出ているからこそ中国の近代史を盛り込んだ物語が書けるのかな?中国にいると政治的に自由に書けないことも多そう。SF(サイエンス・フィクション)は冒頭のケン・リュウの短篇くらいで、他はあんまりSFしていない短編集でした。中国の歴史の流れを知らないとちょっと読みづらいかも。

最後に収録されている立原透耶氏のエッセイ「『三体』以前と以後」でおすすめしている紀大偉や韓松のSFが気になります。

 

阿房宮/郝景芳

小島の洞窟の中で見つけた始皇帝の塑像を持って帰った男が、始皇帝の魂に振り回される話。始皇帝のやばすぎる「やり過ぎ政策」がよくわかる。

 

■移民の味/王谷晶

途中でどこの国からの移民か、なんの餃子かがわかると断然面白くなる百合で餃子の話。本書の中では一番ほんわかしていて楽しいガールズトーク。彼女の親の祖国は今どうなっているのか心配(文脈から推測すると悲しいことに貧困国になっているのかな)

 

■ツォンパントリ/佐藤究

ツォンパントリは「髑髏の壁」という意味。日本に亡命してきた孫文のお話なんだけど、アヘン戦争と現代のメキシコ麻薬戦争が繋がっているとは知らなくて、歴史の勉強になりました。

 

ガタカ/Gattaca

 

 人工授精と遺伝子操作により、優れた「適正者」を生み出すことができる近未来では、自然妊娠で生まれた「不適正者」との職業格差と差別が発生している。不適正者であり、心臓の持病を抱えたヴィンセントは両親や弟からも疎まれるが、適正者でしかなれない宇宙飛行士に憧れ、適正者のDNAを使ってなりすまし、宇宙局「ガタカ」に採用されるというお話。

とってもクールでシリアスなSF映画。常に血液や尿などを使った生体認証で本人確認が行われる監視社会と徹底した差別。命に優劣をつけ選別する「優生思想」の極み。そんな社会で、犯罪とわかっていながらDNA検査を欺き、体を鍛えあげ努力して宇宙へ飛び立つ主人公の物語に、殺人事件からなる心理サスペンスをつけたして、美男美女の造形の美しさ、格好良さも堪能できる贅沢な映画でした。

室内や小道具も『2001年宇宙の旅』のようなスタイリッシュなデザインで、あまりメカニックな感じではないからSFっぽくないんだけど、でもビジネススーツで宇宙に飛び立っちゃうのはすごいなぁ。

三体Ⅲ 死神永生 上・下/劉慈欣

待ち遠しかった三体完結編。毎日読み終えた感想がTwitterで続々とあがり、みんな待ってくれと焦りながら読みました。

三体Ⅱで物語の軸だった「面壁計画」の裏で、極秘に進む「階梯計画」。それは三体艦隊にスパイを送り込む計画。スパイとして推薦されたのは余命幾ばくもない雲天明(ユン・ティエンミン)。彼はこの計画の中心となったエンジニアの程心(チェン・シン)を密かに想いながら宇宙に飛び立つという始まり。

三体・三体Ⅱの強い主人公達から一転、慈愛に満ちたやさしい女性主人公の程心と、雲天明の関係がまんまセカイ系で、『秒速5センチメートル』みたいだと訳者あとがきにも書かれていましたが、それより白髪の老人となり、悟りの極地にいる羅輯(ルオ・ジー)と程心の方が、『STAR WARS』のルーク・スカイウォーカーとレイの師弟関係みたいで萌えました。智子もね、和服で茶道からくノ一まで最強で最高だ。

下巻はもうどんどん宇宙の話が広がっていて、途中途中で本から目を離し、ぼーっと鳥の声を聞いたり、外に出て夜空を眺めたりして休みながらなんとか読み終えました。これを一気に読めた人すごいな。これがたった一人の想像力から生み出されたのもすごい。

翻訳者の大森望さんが言っていたけど、劉さんがすごすぎて、今後も中国SFブームで盛り上がっていきたいけれど、他に劉さんレベルがいないからバランスが保てないとか。確かに。なんか旧約聖書や仏教の教典みたいな、壮大すぎる宇宙の話だったんだけど、とってもエンターテイメントで面白すぎました。人工冬眠を繰り返し、世紀をまたいで旅した程心、お疲れ様。死神永生(死だけが永遠)、宇宙ですら永遠でないと。

 

 

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HELLO WORLD/野崎まど

HELLO WORLD (集英社文庫)

HELLO WORLD (集英社文庫)

 

これぞラノベというのを久しぶりに読む。ボーイズミーツガールを軸に世界がめまぐるしく変わっていき、最後まで疾走する。映画の方はまだ未見です。

本好きで内気な男子高校生の直実の前に、未来の自分と名乗る青年ナオミが現れて、衝撃の未来を知らされる。同じクラスの図書委員、瑠璃と付き合うことになるが、最初のデートで瑠璃が事故死する運命だと。この悲劇を変えることはできるのかというお話。

ツンデレ瑠璃とじりじり距離を詰めていき、初恋の照れくささに背中がかゆくなる前半と、量子記憶装置「アルタラ」の自動修復システムと戦い、何がなんだかわからないけど突っ走る後半。まさしく力業でねじ伏せていくところが野崎まどらしいなぁと思いました。あの武器がね、鈍器といえばアレですよね、さすがですね。

笑っている彼女にもう一度会いたいから、世界を一から作り直すという発想と行動はエヴァンゲリオンのゲンドウみたいですが、そもそもそのマッドサイエンティスト的な思い(過度な純愛)に共感できないので、セカイ系は肌に合わないなと改めて感じました。