私の本棚で SFの文庫といえば早川書房と東京創元社が一番多くて、河出書房新社、竹書房以外の出版社ではSF本を出しているのかなと、本屋さんで普段はあまりチェックしない出版社の棚を探してみました。ハルキ文庫って海外SFがブラッドベリだけなのか…。
米中大戦によって放射能に汚染され死滅した地球。宇宙に脱出したわずかな人類は宇宙コロニーに住み、月の地下資源を頼りに宇宙生活を続ける。月往還船の船長・美島は行方不明になった地球環境調査隊の捜索ため地球に下りるというお話。
航空サスペンスの作家さんらしく、航空機の描写が細かくてすごい。総ページ数が250と薄いけれど、綺麗にまとまっていて読みやすかったです。
同じく放射能で死滅してゆく地球で、穏やかに死を受け入れる人々を描くネヴィル・シュートの『渚にて 人類最後の日』に対する返歌だなと思いました。どんなに辛くても最後まで生きることをあきらめないという逆のメッセージ。
大戦中にコロニー行きのシャトルに上級市民というか、権力者が一番先に乗って宇宙へ脱出したため、権力者優遇の格差社会がそのまま宇宙コロニーにあるのもかなりきつい環境。主人公達が鮭缶を開けるところから海の匂いを懐かしがるのが上手いと思いました。匂いって大事ですね。その後の鮭の遡上と地球の帰還を繋げるところもよき。