夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

草原の国キルギスで勇者になった男/春間豪太郎

草原の国キルギスで勇者になった男

草原の国キルギスで勇者になった男

 

キルギスを動物と旅する冒険記。

海外の旅をリアルRPGと例えて、語学から衛生管理、気象予報士、プログラミングにキックボクシングとスキルを取得し、色々な動物を連れて旅するニュータイプの冒険家さん。

自称が勇者、立ち寄る村をセーブポイントというのはちょっとモヤるけれど、ゲームで育った世代らしい表現。

著者の歌舞伎町のキャッチ経験で鍛えたという、善人悪人を見抜く直感力と交渉力が素晴らしい。あのポジティブさも若く体力があるからこそですね(素直に羨ましい)。

キルギスの人々は優しく親切にもてなしてくれて、イスラムの懐の深さよ。キルギスはいい国だなあと思いながら読み進めていたけれど、最後に著者が遭遇した誘拐婚!いくら文化だからって最悪でありえない。スマホを保持してチャットアプリを使いこなす現代人が、なんでまだ町で誘拐→強制結婚→拒否したら村八分なんだろう。結婚を嫌がる花嫁に、読んでいて同情し胸が締め付けられました。

航路/コニー・ウィリス

航路(上)

航路(上)

 
航路(下)

航路(下)

 

図書館で今はなきソニー・マガジンズの単行本を借りる。単行本はハヤカワから出ていたわけじゃなかったんですね。分厚い上下巻で1ページが2段組仕様と、かなりのボリュームでしたが3日かけて一気読みしてしまいました。

臨死体験の原因と働きを科学的に解明するために、認知心理学者のジョアンナと神経内科医のリチャードが奮闘する物語。

舞台は病院で、ウィリス十八番の喋りたがりキャラがわちゃわちゃ出てきて、いつものように主人公達が翻弄されつつ、「タイタニック」を手がかりに臨死体験の謎解き。SFというより医療サスペンス。会話の端々に細かい伏線が張られていて、第3部からの巻き戻しが見事。最後は泣くまではいかなかったけど、エモーショナルでした。彼岸の彼方、三途の河はタイタニックなのか。

主人公ジョアンナと看護師のヴィエルが百合っぽいくらい仲良しで、毎週木曜日にディッシュ・ナイトと称して、レンタルビデオをだらだらと見る会を開くのがとても羨ましい。こんなマブダチの関係いいなぁ。また映画の批評が辛口で、ウィリスは映画やドラマに対して容赦無いですね。

メタファーとは、なんらかの意味で似通ったふたつのものを遠回しに、あるいは直接的にたとえることだ。死は旅であり、航海であり、通過(パッセージ)だ。

宇宙の春/ケン・リュウ

宇宙の春 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
 

 新☆ハヤカワ・SF・シリーズでは4冊目のケン・リュウ短編集。昨今、対立が生じている出来事や社会問題を、ニュートラルな立ち位置でエンタメを含んだSFに仕立ててしまうその手腕に唸るばかり。世界は感情で動きすぎるんだなと、読後はやや陰鬱な気分になりました。

 

■宇宙の春

膨張と収縮を繰り返す宇宙のサイクルを四季に例える表題作。YouTubeで公開中の「世界SF作家会議」で、宇宙に連れて行くなら犬と猫どっち?と聞かれ「亀」と答えたケン・リュウ。長ーい壮大な考えができるヒト。

 

マクスウェルの悪魔
米国の日系移民の女性がスパイとして日本へ送られ沖縄戦へ。沖縄のユタ、マブイを絡めてくるなんて!最後は涙、涙。霊を使ってエネルギーを生み出し兵器を動かす話もぶっ飛んでいるが、その「マクスウェルの悪魔」をwikiで調べてみるも全く理解できない。

 

■思いと祈り

銃乱射事件に巻き込まれ死亡した女子高校生の家族が、ネットで叩かれマスコミに遊ばれと泥沼化していく話。これは辛い。コロナ禍で感染者なのに叩かれる現状とも似ている。

 

■充実した時間

家事子育ても大変だけど、大変だからこそ充実した時間。その全てをロボットにお任せしたら意味がないのは分かる。最後の著者付記がユーモアがあって良き。

 

■灰色の兎、深紅の牝馬、漆黒の豹

三国志が元ネタの中華ファンタジー。映像化しやすそう。

 

■メッセージ

死滅した異星人が厳重に封印したものとは?考古学者の父と娘の和解物語。親子のどつきあいは面白かったけど、宝物ハンターとしてこんなの発掘したくないな。

 

■歴史を終わらせた男-ドキュメンタリー

731部隊

猫奥/山村東

 

猫奥(1) (モーニングコミックス)

猫奥(1) (モーニングコミックス)

 

本屋さんで思わずジャケ買い、大当たりです。

大奥に暮らす女達はみんな猫を飼っているのに、猫を飼うタイミングを逃してしまった御殿女中滝山(真面目すぎて損するタイプ)。周りからは勝手に猫嫌いと勘違いされているけれど、本当は猫が大大好きという漫画。ガチな猫廃人っぷりがわかりみ!うちは子どもがアレルギーのため猫が飼えないので、滝山の気持ちわかる!わかるよ〜。

江戸時代の天保年間が舞台。怒涛の幕末期に向けて嵐の前みたいな頃ですが、そんなことより猫が可愛い。滝山を始め、実在した人物はしっかりと調べられて、かつコミカルに描かれているので、猫大奥から江戸時代に興味を持つきっかけにもなれそう。わりと学習漫画(カバーをとったら楽しかった)

 

 

Neverland Diner―二度と行けないあの店で/都築響一 編

 

思い出に残っているあのお店、100人分の記憶達。閉店してしまったお店もあれば、苦い思い出が蘇るために近寄れないお店もあり、読みながら自分の甘い苦い記憶がわんさか出てきて、私も誰かに語りたい!となりますね、絶対。

西日本はお好み焼き屋の思い出が多かったり、やっぱり昭和末期のバブル期は別格でぶっ飛んでいて楽しくて、今の若い人にとってはチェーン店の思い出の方が多いんだろうかと思ったり。イオン進出と駅前の再開発って、個人商店を殺して、ひたすらつまらない町になってしまうんだなとしみじみ思う。そんな096「見えない餅/くどうれいん」が印象的でした。

寄稿された方はクリエイター界隈の人達ばかりだったので、東京の中央線沿いの店の話が多くを占めていて、こりゃ自分が知っている店はないなと思いながら読み進めていたけど、076「夢の跡/金谷仁美」ででてきた、大阪は道頓堀近くのインドバーだけ知っていました。(びっくりして、当時一緒に行った友人にもメールで確認とったらビンゴでした)。

あのインドバーの改装作業を手伝って、2階で座布団並べて雑魚寝して、痛みかけてる鶏肉を使ったインド料理を食べました。お店のその後が知れて良かった。