夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

宇宙の春/ケン・リュウ

宇宙の春 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
 

 新☆ハヤカワ・SF・シリーズでは4冊目のケン・リュウ短編集。昨今、対立が生じている出来事や社会問題を、ニュートラルな立ち位置でエンタメを含んだSFに仕立ててしまうその手腕に唸るばかり。世界は感情で動きすぎるんだなと、読後はやや陰鬱な気分になりました。

 

■宇宙の春

膨張と収縮を繰り返す宇宙のサイクルを四季に例える表題作。YouTubeで公開中の「世界SF作家会議」で、宇宙に連れて行くなら犬と猫どっち?と聞かれ「亀」と答えたケン・リュウ。長ーい壮大な考えができるヒト。

 

マクスウェルの悪魔
米国の日系移民の女性がスパイとして日本へ送られ沖縄戦へ。沖縄のユタ、マブイを絡めてくるなんて!最後は涙、涙。霊を使ってエネルギーを生み出し兵器を動かす話もぶっ飛んでいるが、その「マクスウェルの悪魔」をwikiで調べてみるも全く理解できない。

 

■思いと祈り

銃乱射事件に巻き込まれ死亡した女子高校生の家族が、ネットで叩かれマスコミに遊ばれと泥沼化していく話。これは辛い。コロナ禍で感染者なのに叩かれる現状とも似ている。

 

■充実した時間

家事子育ても大変だけど、大変だからこそ充実した時間。その全てをロボットにお任せしたら意味がないのは分かる。最後の著者付記がユーモアがあって良き。

 

■灰色の兎、深紅の牝馬、漆黒の豹

三国志が元ネタの中華ファンタジー。映像化しやすそう。

 

■メッセージ

死滅した異星人が厳重に封印したものとは?考古学者の父と娘の和解物語。親子のどつきあいは面白かったけど、宝物ハンターとしてこんなの発掘したくないな。

 

■歴史を終わらせた男-ドキュメンタリー

731部隊

猫奥/山村東

 

猫奥(1) (モーニングコミックス)

猫奥(1) (モーニングコミックス)

 

本屋さんで思わずジャケ買い、大当たりです。

大奥に暮らす女達はみんな猫を飼っているのに、猫を飼うタイミングを逃してしまった御殿女中滝山(真面目すぎて損するタイプ)。周りからは勝手に猫嫌いと勘違いされているけれど、本当は猫が大大好きという漫画。ガチな猫廃人っぷりがわかりみ!うちは子どもがアレルギーのため猫が飼えないので、滝山の気持ちわかる!わかるよ〜。

江戸時代の天保年間が舞台。怒涛の幕末期に向けて嵐の前みたいな頃ですが、そんなことより猫が可愛い。滝山を始め、実在した人物はしっかりと調べられて、かつコミカルに描かれているので、猫大奥から江戸時代に興味を持つきっかけにもなれそう。わりと学習漫画(カバーをとったら楽しかった)

 

 

Neverland Diner―二度と行けないあの店で/都築響一 編

 

思い出に残っているあのお店、100人分の記憶達。閉店してしまったお店もあれば、苦い思い出が蘇るために近寄れないお店もあり、読みながら自分の甘い苦い記憶がわんさか出てきて、私も誰かに語りたい!となりますね、絶対。

西日本はお好み焼き屋の思い出が多かったり、やっぱり昭和末期のバブル期は別格でぶっ飛んでいて楽しくて、今の若い人にとってはチェーン店の思い出の方が多いんだろうかと思ったり。イオン進出と駅前の再開発って、個人商店を殺して、ひたすらつまらない町になってしまうんだなとしみじみ思う。そんな096「見えない餅/くどうれいん」が印象的でした。

寄稿された方はクリエイター界隈の人達ばかりだったので、東京の中央線沿いの店の話が多くを占めていて、こりゃ自分が知っている店はないなと思いながら読み進めていたけど、076「夢の跡/金谷仁美」ででてきた、大阪は道頓堀近くのインドバーだけ知っていました。(びっくりして、当時一緒に行った友人にもメールで確認とったらビンゴでした)。

あのインドバーの改装作業を手伝って、2階で座布団並べて雑魚寝して、痛みかけてる鶏肉を使ったインド料理を食べました。お店のその後が知れて良かった。

 

標本バカ/川田 伸一郎

標本バカ

標本バカ

  • 作者:川田 伸一郎
  • 発売日: 2020/09/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

国立科学博物館に勤める哺乳類の研究者の標本を収集・管理する日々のコラム集。普段は見られない博物館の裏側、標本を作る仕事が垣間見れて興味深いです。著者の息子君達への英才教育も微笑ましい。幼児期に虫捕りで覚える知識は大切。浅野文彦氏のイラストもリアルな絵柄で笑いをとりにきていて、そしてサインでかい。

著者はモグラの専門家で、大変にモグラ愛溢れた内容でした。紹介されていたモグラの骨盤や耳小骨は確かに可愛いが、我が家の裏畑のアスパラや小松菜を、それこそ根こそぎ食べつくす奴らが憎くてたまらないです。一般家庭では法的に罠を仕掛けられないそうなので、川田さん、うちのモグラ捕獲してくれないかしら。多分アズマモグラだと思います。

ヒトはそもそもほかの生き物を利用して生きていく生き物だ。腹をくくる必要があると思う。

 

時間衝突/バリントン・J・ベイリー

 

時間衝突【新版】 (創元SF文庫)

時間衝突【新版】 (創元SF文庫)

 

支配側タイタン軍団と従属側異常亜種人達に分かれている地球に、2世紀後の未来からキツネザル型エイリアン軍が突っ込んでくるみたいなんだけど、この時間システムの衝突をどうすれば回避できるんだーという話。

時間SFはよく話を見失ってしまうけど、今回も最後まで読み終えても全く話がわからなかった。ベイリーの傑作怪作(でもベイリーはどれも怪作だよな)というのにわからなかったのが癪で、ノートに話の流れをメモりながら2周目でようやく理解できました。はぁスッキリ!

地球も支配と従属側、星間宇宙社会レトルト・シティも娯楽側と生産側に分かれていて、どちらも相容れない格差社会

レトルト・シティの階層分けは郝景芳の『折りたたみ北京』を彷彿しました。2世紀先に予定されているキツネザルエイリアンの襲撃は劉慈欣『三体』みたい。私の脳内はかなり中国SFに侵されている…。

六次元マトリックスや斜行存在(デウス・エクス・マキナ!)など複雑怪奇。ベイリーのアイデアは素っ頓狂で楽しい。

主人公である中年考古学者ヘシュケのやる気のなさ、物理学者アスカーの非協力的な脱落っぷり、これでよくストーリーを引っ張って行けたなと感心。不思議です。