夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

日本SFの臨界点[怪奇篇]ちまみれ家族/伴名 練 編

 

 [恋愛篇]と同時に発売された[怪奇篇]は11篇の短篇を収録。怖いよりも、世にも奇妙なウルトラQ的な、とってもクセのあるホラーSFばかりでした。ザクザク殺し合う話はなくて読みやすかったです。

 

■DECOーCHIN/中島らも

音楽雑誌編集者がライブ取材で出会ったすごいインディーズバンドとは…。フリークステーマで、らもさんの遺作!階段から転げ落ちる直前まで、こんなロックンロールな作品書いていたのかぁ、さすが中島らも
ちなみにウチの地域のクロネコヤマト担当ドライバーが中島らもそっくりで、らもさんは実は生きていて、雪国で宅配行をしていると信じています。

 

■ぎゅうぎゅう/岡崎弘明
大変息苦しい人口爆発な密集SF。うへぇ

 

■地球に磔にされた男/中田英
タイムマシンに乗って、過去の自分と入れ替わりたい男の話。結構意外なオチで、びっくり。あれから10年ですね…。

 

■黄金珊瑚/三波耀子

日本SF界の黎明期に女性作家がいたんですね。旦那さんから「僕はSF小説のような夢物語は嫌いだ」と言われて作家活動を断念、以後は育児家庭に専念って(泣)

 

■ちまみれ家族/津原泰水
流血まみれな家族の話。津原さんのギャグ短篇のインパクトの強さよ。このテンポの良さと言葉のリズム。海外文学翻訳では絶対に出会えない、そしてとんでもなく酷い話。

 

■雪女/石黒達昌
記憶喪失で低体温症、保護された女性のレポート。雪女と鶴の恩返しMIX。機織り、つる、子どもをこういう感じに混ぜてくるのね。

嘘と正典/小川 哲

 

嘘と正典

嘘と正典

 

日本SF大賞受賞『ゲームの王国』の小川哲氏短篇集。父と子の関係と時間SFの融合が多かった。小川氏の書く小説の色味の少ない冷めた視線、でも重量感があるとこ好きです。

 

■魔術師
お父ちゃん不器用すぎて伝え方下手でも、娘よくぞ辿り着いたその1。天才マジシャン親子の物語。時間SFなんだけど、最後に話を見失ってしまいました。


■ひとすじの光
父の残した競走馬と家系の謎解き物語。ひょっとすると私小説だったりするのだろうか?お父ちゃん不器用すぎて伝え方下手でも、息子よくぞ辿り着いたその1。これだけSF設定なし。

 

■ムジカ・ムンダーナ
人間の耳には聴こえないけれど宇宙に鳴り響いている遠い音楽と作曲家親子のお話。お父ちゃん不器用すぎて伝え方下手でも、息子よくぞ辿り着いたその2。宇宙の音楽と惑星探査船ボイジャーを絡めるところとか壮大でカッコいい。

 

■最後の不良
流行が許されない近未来で、特攻服に改造バイクで反抗する男の話。どこかで読んだような気がすると既視感があったけど、雑誌「pen」での「SF絶対主義」特集号の時に書き下ろされてた短編でした。個性と没個性の関係は紙一重

 

■嘘と正典
米ソのスパイ大作戦+時間SF。表紙がなぜ カール・マルクスなのかは、この表題作「嘘と正典」でマルクスエンゲルスに触れるから。最初はとっつきにくかったけれど、後半は映画「テネット」のような時間軸をめぐるスリルがあって面白かったです。

日本SFの臨界点[恋愛編]死んだ恋人からの手紙/伴名 練 編

 

 恋愛要素を含めた短篇集未収録作品を中心に編成した9篇のアンソロジー。編者伴名氏のSF愛に満ちた独特の視点が面白いし、それぞれの短編の前に作品と作家紹介が細かい字で3ページもあって、SFマガジンに掲載されたけど単行本文庫未収録って多いんだなと。そこまで細かく調べ上げてくる伴名氏のオタクぶりに恐れおののく。こんなに隠れた名作があるなら、ネット上でアーカイブ&有料閲覧できるといいですね。

 

■死んだ恋人からの手紙/中井紀夫
星間戦争の兵士が故郷の恋人に送る時系列がバラバラの手紙。俺、帰ったら結婚するんだ…って、死亡フラグが立ってる立ってる!

 

■奇跡の石/藤田雅矢
東欧の小国で超能力者達が住む村に調査に訪れた主人公が出会ったのはというお話。なんとなく坂口 尚や藤原カムイが描く漫画(となると元はメビウスか?)の雰囲気を感じました。日本のSF小説っていつも脳内で漫画かアニメになってしまう。必ず少女が出てくるからかな。

 

■劇画・セカイ系大樹連司
売れないライトノベル作家のお話。これは仕掛けが面白かったけど、最後に主人公が選択した道があまりにも現実的過ぎてせつない。セカイ系+売れる商業・売れない芸術。

 

G線上のアリア高野史緒
16世紀ヨーロッパが舞台なんだけど改変歴史モノ。GってそっちのGかいっ!と、中世にもしもデジタルが発達していたらの妄想が楽しい。

 

■人生、信号街ち/小田雅久仁

信号待ちをしていた男女2人が空間に閉じ込められてというお話。ワンダーなSFが編者の伴名氏の作風で好みなんですね。ひ孫まで順調に生まれる人生うらやましい。

 

■ムーンシャイン/円城 塔
円城さんのはったり数学SFだ〜!全然わかんないし、「恒河沙」って字を久しぶりに見た。ゼロ何個の桁数でしたっけ?脳内でアラン・チューリングが自転車漕いで去っていきました。

 

■月を買った御婦人/新城カズマ
19世紀メキシコの竹取物語人海戦術で0と1に分かれて演算するって、劉慈欣『円』に出てくる面白いアイデアだと思っていたのに、それよりも前からあったとは衝撃。

 

1984年に生まれて/郝景芳

1984年に生まれて

1984年に生まれて

 

 『折りたたみ北京』郝景芳の長編。1984年と言えばオーウェルですが(まだ積ん読です…)SF仕立てではないけれど、不思議な仕掛けが含まれた作品でした。

郝景芳短篇集に収録されていた『山奥の療養院』の、大学で学んだ後に自分を見失いかける物語を彷彿させる、郝景芳が悩んできた”いばらの道”を描いている気がしました。

前半はこの物語の主人公、軽雲の父が体験する文化革命から自由経済へ、激動の中国の30年間のパートと、海外に飛び出して自由になりたいけど、その一歩を踏み出せない軽雲のパートをいったりきたり。それから意気投合する男性が登場するも自己崩壊してしまう軽雲。とても苦しい場面が多かったのですが、湖のシーンはびっくりしたなぁ。

They are watching you.【カレラハ オマエヲ ミテイル】
この『1984年』の有名な言葉。カレラとは中国共産党なのか、人民なのか、母親なのか、自己なのか、それとも…。色んな意味を含んでいるのがこの作品のすごいところ。

yanhao.hatenablog.com

 

ミャンマーの柳生一族/高野秀行

 

 ミャンマーでまたまた軍事クーデターが起きているので、そういえば以前買ってたことを思い出して本棚からひっぱりだしてきました。表紙の題字は糸見渓南氏。ググってみたたら「必殺仕事人」の題字を書かれた書道家さん。最高の表紙ですね!

高野さんは「アヘン王国潜入記」でミャンマーのワ州に長期滞在されていましたが、今回は先輩の作家舟戸与一氏の付き添いカバン持ち取材旅行。この2004年当時は軍事政権が実権を握り、外国からのジャーナリストの取材には軍の情報部がついてがっちり監視。この情報部の人たちを、江戸幕府を裏で支えた柳生一族に例えて解説。JKだった頃に隆慶一郎の柳生モノを読みまくっていて良かった。宗矩、十兵衛、列堂!懐かしい(という言い方も変だけど)

先の大戦中、アウン・サン将軍は日本軍から面田紋次と日本名を与えられ、ネ・ウィン将軍が高杉晋って名前だったと初めて知りました。ビルマ独立に日本は関わっているんだから、知っておくべき歴史なんだよなぁ。

ミャンマーで大ヒットした武田鉄矢主演映画には爆笑。読書好きで社交性が高いミャンマーの人々に親近感が湧きました。今起きているクーデターの行方が気になります。