夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

イルミナエ・ファイル/エイミー・カウフマン&ジェイ・クリストフ

 

イルミナエ・ファイル

イルミナエ・ファイル

 

 ページ数600、お値段4730円!高いし分厚いでも読みたい、どこかの図書館にないのか〜と検索したら県立図書館にあったので、わざわざ行って読んできました。本屋で立ち読みした時は、ベスターの『ゴーレム100』のマネなのかという印象でしたが、内容はライトノベル。ゴーレム100の方が遥かに狂っていたなぁ。真っ黒のページが多くて、インク代で高くついたのかな?

辺境のレアメタル採掘惑星に星間企業が突如皆殺し攻撃、かろうじて逃げ延びた避難民達の乗る船団にも証拠隠滅のため追っ手が迫る。そして任務を全うしたいがために狂う船の制御AI、船団に放たれたゾンビウイルス、主人公達は無事にワームホールまでたどりつけるのかというスペースオペラSF。

メール、チャットや報告書、復元された文書ファイルに防犯カメラ映像などででつづる描写。緊張感高まる演出で一気読みできました。女子高生ハッカーパイロットの彼ピが主役。初代のガンダムっぽい展開だなーと思いながら読み進めていったら、HALの暴走にウイルス感染までてんこ盛り。ラストは壮大な○○内ゲンカでぎゃふん。とってもゲーム的なエンターテイメントでした。

女子高生と彼ピのメールのやりとりがねー。ちょっとついていけなかったです。

 

 

yanhao.hatenablog.com

 

 

2010年代海外SF傑作選

 

 インターネットの進化に希望を描いた2000年代とは打って変わって、ICT社会による弊害や絶望感が出てくる2010年代SF。読み比べると面白いですね。テクノロジーが進化すると、使いこなす人類の方のアップデートも必要なのかな。

 

■火炎病/ピーター・トライアス

視界に青い炎が見える難病が発生。主人公はARを駆使して炎を再現し、医師や家族の理解を得ようとするお話。テクノロジーの正しい使い方、青い炎の正体など面白かった。

 

■乾坤と亜力/郝景芳

AIと幼い子どものほのぼのとしたやり取り。郝景芳はいいなぁ、触れ合いを大事にする物語が好き。今月は彼女の新刊が出てくれて嬉しい。

 

■ロボットとカラスがイースセントルイスを救った話/アナリー・ニューイッツ

野良ロボットとカラスのコンビが死にかけ病人を救う話。カラス言語を習得するロボットすごっ

 

■良い狩りを/ケン・リュウ

短編集『紙の動物園』収録作品なので再読。ほんと傑作!霊幻道士からのスチームパンク。アニメ映像化されているらしいので、これを観たいがためにNetflix入ろうかなと思っちゃう。

 

■果てしない別れ/陳楸帆

陳楸帆の単行本『荒潮』が面白かったので、期待しながら読みました。全身不随となった男が深海にいた知的生命体とリンクする話。そして彼女との深い絆も素敵だった。

 

■“ “/チャイナ・ミエヴィル

頭の中でずーっと「こびとずかん」のテーマソングが流れてました。〈不在〉生物を論じたレポート。

 

ジャガンナート世界の主/カリン・ディドベック

巨大なマザーの中で働くヒトの話。SFを読む醍醐味は、文章を自分の脳内でどこまでイメージできるか試すことだと思う。

 

■ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル/テッド・チャン

短編集『息吹』収録作品なので、こちらも再読。仮想空間でデジタル生物を育てる話。次々と変わってゆくプラットフォームがさもありなん。所詮は電子でプログラムなのに、最後の飛躍というか到達点が高い。ポケモンが人権を得るにはそこまでいくのかという。アナに一度も自分の想いを告白していないのに、デレクが選択した事はそれでいいのか、自己完結しすぎじゃないのかと悶々とする。

 

サハリン島/エドゥアルド・ヴェルキン

 

サハリン島

サハリン島

 

北朝鮮の核ミサイルで第三次世界大戦が勃発、先進国の中で唯一無事だった日本は大日本帝国となり再び鎖国する。舞台は日本の領土となり中韓からの難民が押し寄せるサハリン島。応用未来学の女性学者シレーニは、随行者アルチョームと現地視察の旅にでるというお話。終末後SF。

イザベラ・バードとイトの冒険記みたいで、お互いを信じ合う2人が良き。流行り?の無限列車は出てくるし、400ページの2段と分厚いけれど面白くてページをめくる手が止まりません。

2人がサハリン島の真ん中に達した頃に大地震が発生。被災した刑務所から脱獄した囚人に襲われ、ゾンビ感染者に襲われ。

サハリン島はヒトを喰う」死体は発電所の燃料になり、石鹸になり…。この僻地のドライ感。

ロシアの小説ってあまり読んだことないんですが、マンパワーあるところが大国らしい。モブがとにかく多いんだな。

あとがきによると作者さんは日本の文化と宮崎アニメがお好きらしく、どこに宮崎アニメの影響が出てくるかなと思ったら、(ゾンビを)薙ぎ払え!だった。

2000年代海外SF傑作選

 

 昨年は各出版社からSFアンソロジーがたくさん出ました。本屋で見かけたらウハウハと鼻息粗くしてレジにGOしたのに積ん読で、読み始めたのは年明けからです。この流れはしばし続く。この「2000年代」は劉 慈欣の『地火』目当てで購入。

 

■ミセス・ゼノンのパラドックス/エレン・クレイジャズ
二人の女性がカフェでブラウニーをわけっこする話なんだけど、ブラウニーを無限に切り刻んでゆく。最初からかましてくれます。

 

■懐かしき主人の声/ハンヌ・ライアニエミ
一人称ぼくという賢い犬と、五右衛門みたいな無口で強い猫が活躍するサイバーパンク

 

■地火/劉 慈欣
『三体』の劉氏が書く炭鉱のお話。話が転換する要の「空は落ちない!」演説は、映画『インディペンデンス・デイ』の大統領みたいだった。小松左京の『日本沈没』も彷彿。ということでとてもエンターテイメント。短編でこの力強さ、すご。

 

■シスアドが世界を支配するとき/コリイ・ドクトロウ
破滅SFなのに、生き残ったみんなが必死に助け合っていて感涙。スディーヴン・キングだったら絶対に殺し合っているのにw

 

■暗黒整数/グレッグ・イーガン
人知れずこっそりと人類を救う数学SF!「ダークマター暗黒物質)、ダークエネルギー(暗黒エネルギー)、そしてダークインテジャー(暗黒整数)そのすべてがわれわれのまわりにあります」うなじの毛が逆立った!

わたしたちが光の速さで進めないなら/キム・チョヨプ

 

わたしたちが光の速さで進めないなら
 

 韓国の若手作家が贈る、エモすぎるSF短編7編。

ガジェットや宇宙工学はがっちりSFしている舞台で、やさしさと切なさにつつまれた物語たち。どんなに先端科学技術が発達しても、宇宙に進出しても、人は人との繋がりを求め続けるのね。というテーマを丁寧に丁寧に描写していました。ああ素敵なSFだなぁ。

 

■『巡礼者たちはなぜ帰らない』

この短編を読み終えた直後に、「日本の"普通''はエベレストより高いんじゃあ」と書かれたツイートを見かけて、そうだよなーと。差別や排除を無くしていくには、正常という概念を無くして、お互いの理解からかな。

■『スペクトラム

宇宙探査に出かけて行方不明になり、40年もの間地球外生命体と暮らした女性生物学者のお話。色彩で記録を取る短命な異星人が切ない。

 

■『共生仮説』

新生児の脳内に地球外生命体が共生。妙に説得力がありロマンもあるSF設定。

 

■『わたしたちが光の速さで進めないなら』

表題作。廃墟の宇宙ステーションで家族のいる星へ行く船を待ち続ける老女のお話。涙を誘ういい話だし、経済効率優先により取り残される人を描いているので、寓話として読んでも考えさせられる話。

 

■『感情の物性』

感情を造形化した製品がバカ売れ!というお話。人はなぜネガティブな感情を買うのか。文字にしづらいイメージを細やかによく書けててすごいです。

 

■『館内紛失』

記憶を保管するマインド図書館で、母のデータにアクセスできないというお話。元の名前を失ってしまった母。世界のなかで紛失した母。うわーこれはわかりみがすごかった…。結婚と妊娠って、自分の名前とか無くなるものが多すぎるよね。

 

■『わたしのスペースヒーローについて』

ジェギョンおばさんは人魚になったというお話。ラストが痛快でよき。

 

 追い求め、掘り下げていく人たちが、とうてい理解できない何かを理解しようとする物語が好きだ。(中略)どこでどの時代を生きようとも、お互いを理解しようとすることを諦めたくない。(著者あとがきより抜粋)

 

1月に放送された「第2回世界SF作家会議」で、キム・チョヨプはゲスト出演。女子大生の部屋みたいだし、話していることがもう小説みたいになっていると一同騒然。


#1 パンデミックから1年...SF作家たちはどう見たか?【世界SF作家会議】