夜空と陸とのすきま

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自生の夢/飛 浩隆

自生の夢

飛さんの新刊『零號琴』のぶ厚さにおののき、とっさに隣りにあったこの本を手に取りました。こちらも星雲賞(日本短編部門)や日本SF大賞の受賞作品が収録されている豪華本。『自生の夢』は連作で、なんとなく収録されているすべての短編の設定が繋がっているから連作短編集になるのかな。

『海の指』は、表紙がイメージ画でしょうか。瀬戸内海の小島で暮らす夫婦の話かと思いきや、実は崩壊した世界で、そういえば日本って国があったねー、もう誰も覚えてないよというくらい時間が経過した頃の、灰洋という流体が地球を覆っていて、かろうじて残った陸地での夫婦のお話。この短編集の中で一番わかりやすい(読みやすい)。そしてDV元夫の怨念怖い。

『自生の夢』を含むアリス・ウォンと複雑適応系エージェントCassyの連作短編は、空間も時間も自由で、あまりにもイマジネーションがすごくて(電子的書字空間!ってなんね?)うかうかしていると置いてけぼりにあいました。途中で話についていくのをあきらめて、この表現はいいなぁと詩的な部分を堪能することに。そこが飛作品の魅力的なところ。

 

最後に収録されている『はるかな響き』

のっけから、ヒト猿と石版モノリスの登場で、脳内に「プワープワープワー、ジャジャーン!」とR.シュトラウスの『ツァラトゥストラはこう語った』が響き渡ります。せつないというか、地球の終わりの物語は淋しくなるね。

「なんだってそうさ。われわれも、生きてみなければ、いつ死ぬか分からない。ジャズの即興も、温泉宿で興じる卓球も、コンピュータが行う演算処理も、いつ終わるかを(終わるかどうかさえ)事前に計算することはだれにもできない。
 生きた結果として、たまたまある日、死がやってくる。そのときなって分かるんだ。ああ、いま計算がおわったのだと」