行方不明になった兄を探しに、ある国へ入国したアンナ。その国は秩序が崩壊し、人々の心は荒み、日々物がなくなっていく極限の状態。アンナは生き延びて脱出できるのか。アンナからのあてもない手紙という形式で、物語が紡がれていくディストピア小説。
雑誌BRUTUS「危険な読書」特集で紹介されていて気になっていた本。隣町の図書館の閉架で見つけた単行本は、初版なのにスピンが動いてない!ってか誰も借りてないんかい〜どれだけ長い期間閉架にあったのかしら。単行本の方は、表紙に描かれているボトルシップが読後の希望を少し感じさせてくれて好きです。
物語の前半は荒れた国の現状、誰も信じられない街の様子が延々と描かれていて苦しくなります。でもシリア内戦や焼け野原となった諸外国の地域は、今でもこうなのかもと現実と地続きに思える。後半は砂の城を築くような、救済してもいっこうに報われなく絶望と疲労だけが溜まっていく。最後はどうなるのかわからないままですが、こうしてアンナの日記を読めているということは…希望があると思いたい。
わかるでしょう、ここにいるとどういう状況に立ち向かわされるかが。ただ単に物が消えるだけではないのです。ひとたび物が消えると、その記憶も一緒に消えてしまうのです。脳のなかに闇の領分が生じ、その消えた物をひっきりなしに喚起する努力でもしない限り、またたく間に永久に失われてしまうのです。