夜空と陸とのすきま

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模造記憶/フィリップ・K・ディック

模造記憶 (新潮文庫)

新潮文庫から出ているディック短篇集3冊のうちのひとつ。初期から晩年まで幅広く押さえていてバランスが良い。80年代の新潮文庫は海外SF小説を色々と出版していたようで、よく古書店でみかけます。先日の「新潮45」騒動は腹立たしいことこのうえなかったけど、またぜひ良質な海外SFを文庫で出版してください。お願いします、マル

本のタイトルになっている「模造記憶」という短編はないけれど、この短編集の目玉は多分、シュワルツェネッガー主演の映画『トータル・リコール』の原作である『追憶売ります』。

ここで私の昔話。テレビのロードショーで見た『トータル・リコール』の出だしが、少年ジャンプに連載されてた寺沢武一コブラ』の第1話まんまだったので、「ハリウッドがコブラを真似した!」と一緒に映画をみた家族で大騒ぎだったんですけど、1966年のディック『追憶売ります』をコブラパクリ真似したというわけだったんだなぁ。(あくまでもイントロ部分だけ)とか、読んでいて気がついてしまった。子どもの頃の私に教えてあげたい、ディックすごいんだよと。そしてコブラを久しぶりに読み返したくなりました。魅力的だった盗賊というとルパン3世よりコブラでした。すっげー歳がばれる。

 

その他気になった短編の感想

 

『この卑しい地上に』
魔女物のホラー。ディックにしては珍しくファンタジーで、珍しく完成度が高い。すごくきれいにオチていてびっくり。

 

『ぶざまなオルフェウス
自虐ネタ?こそばゆくなりました。

 

『囚われのマーケット』
ぼくのおばあちゃんは変なんだ、週末になるとトラックに店の商品を積み込み、どこかへ行って大金を持って帰ってくる。絶対に行き先を教えてくれないし、一緒に連れて行ってくれないんだ。そうだ、トラックの荷台に忍び込んでついていってやろう!という出だしだったのに、なんでだんだんとアレな話にもっていっちゃうんだろう。苦笑せずにはいられません。

 

『逆まわりの世界』
長編「逆まわりの世界」とは別に同名の短編バージョンもあるとは。短編バージョンは時間が逆転していくという面白いアイデアの設定が、説明不足でまったくわからなくて、かつ変に明るくて、いや髭なんてどうでもええがな!というツッコミで終わる。

 

解説にあったディック自身が書いた「よいSFの定義」をメモ代わりに抜粋。

われわれがSFを読むのは、それによって頭の中に発生するアイデアの連鎖反応を経験する快楽が、こたえられないからである。したがって、最高のSFは、最終的には作家と読者の共同作業となり、そこでは両者が創造行為をわかちあい—そして、おたがいにそれをたのしむ。この喜び、新しいものを発見する喜びが、SFに不可欠な決定的要素なのだ。