夜空と陸とのすきま

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ゲームの王国 上・下/小川 哲

ゲームの王国(上) (早川書房)

上下巻を読み終えた日に山本周五郎賞受賞!おめでとうございます!
書評家のトヨザキ社長もおすすめ、去年のアメトーークで読書芸人がジャケ買いする本として紹介されてからずっと気になっていて、ようやく手に取りました。カンボジアポル・ポト支配下における大虐殺から生き延びる"ゲーム"の上巻(70年代)から、脳波を使ったゲーム"チャンドゥク"と見事に伏線を押さえていくSF展開の下巻(2023年と少し未来)まで、これを31歳の作家が書いたなんて、またまたすごい新人さんが出てきたよ。

 まるでゲームだ。アドゥはそう思った。革命の名のもとに、オンカーは複雑怪奇なルールを設定した。ひとつでも違反すると殺される。まさに命を賭けたゲームだ。生き残るためにはすべてのゲームで勝つことが必要だった。

 上巻と下巻の登場人物数もかなりいるのに、とにかくどんどん死んでいく。ひとつでも選択を間違えれば静粛されるから。そんなゲームを生き抜く主人公ムイタックとソリア。私も同じ年代をのほほんと生きていたのに、ほとんど知らなかったクメール・ルージュの恐怖に震えました。理想的な共産主義国家を短期間で作ろうとすると、疑心暗視で虐殺と(((( ;゚Д゚)))。これを機に映画『キリング・フィールド』と『アクト・オブ・キリング』あたりも見てみたいと思います。

殺伐とした話なのに、超能力(ゴムが切れると人が死ぬと予見したり、泥の声が聞こえるとか)や呪術といった特異なキャラが出てきたりして変すぎて和む。ちょっとジョジョっぽい。下巻の変態野郎カンは『ゴールデン・カムイ』っぽい。

下巻は大虐殺を生き延びた主人公達と次世代の物語。ムイタックとソリアの理想は同じでもやっていることがかみ合わずもどかしい。脳波を測定してゲームに反映させるあたりは、イメージがうまくできなかったけれど、ムイタックが叔父のノートを読んで人生の真理に気がつくシーンは好きでした。

人生は、わずかに残った印象的な断片と、その断片を補完する現在の自分と、直近の一年間で成立している。記憶はアナログメディアで、再生するたびに劣化し、その劣化を補うために現在の自分が入りこんでくる。

こうして記憶は美化されるのね。