夜空と陸とのすきま

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謎の独立国家ソマリランド/高野秀行

謎の独立国家ソマリランド

 アフリカ大陸北東部、アフリカの角と呼ばれる地域に位置するソマリアは、現在、壮絶「北斗の拳」状態の戦国南部ソマリアと、海賊プントランドと、奇跡のハイブリッド民主主義国家の「ラピュタソマリランドにわかれている。なぜ内戦が続く不安定な地に、突如平和な国が誕生したのか、その謎にせまる探検家高野秀行氏のルポ。

ソマリランドのソマリ人は、覚醒作用を持つ植物「カート」を常食?していますが、密着取材なので、高野氏もカートを食べまくる「カート宴会」に毎晩参加して、一緒にアッパーになりながら氏族体系やなぜソマリランドが民主主義化に成功し、平和が維持できるのかを教えてもらいます。翌日はカートの副作用で超ダウナーになり、猛烈な便秘に苦しみながら…体張っててすごいです。

続いて護衛兵士を雇い、海賊国家プントランドに乗り込み取材。平和なソマリランドと違い、殺伐とした海賊の国では、行く先々で安全のために湯水のようにお金が消えていく。これで本が売れなかったらどうするんだと思い詰めた高野氏は、海賊を雇って身代金誘拐現場を動画撮影する場合、なんと500万円ほどの予算でできてしまうことを教えてもらう。この見積もりをとることで、なぜソマリア沖の海賊による犯罪が後をたたないのかの謎が解けてる。またまたすごい!

そしてついにウォーロード(武将)達とイスラム原理主義組織が千日戦争をしている本国ソマリアに突入。首都モガディシュはテロが日常。ここで、映画「ブラックホーク・ダウン」が描いた1993年のモガディシュの戦闘など、ソマリアの近代史がわかります。

再びソマリランドに向かい、地元のテレビ局のバックアップをうけながら、族長にインタビュー。ソマリランドのハイブリッド民主主義もとてもよく考えられていて感心。血で血を洗う歴史から、ようやく生み出された自称「国家」(まだ国連から正式に認められてない)。押しつけの政府でなく、自分たち遊牧民の郷土風習にあった政治体制を作れていて、正直うらやましい。

ここまでで十分に面白く充実した内容でしたが、最後の後日談で、また2回ほどソマリランドに行く高野氏。カート中毒になってしまったんじゃと思いきや、再取材中のモガディシュで、最前線の戦闘に巻き込まれ、搭乗した装甲車に実弾が当たりまくるという激しさ。その話もっと詳しく!というかそれでもう1冊続編書いてよと思うほど。本人はこりずに「これで本物のディアスポラ(海外在住のソマリ人)になれた」と喜んでいるのがさすがです。

この本は、数年前にHONZで話題になっていて、ものすごく気になってはいたのですが、何よりも本の厚さにおののいてしまいスルーしていました。ただいま出勤しなければならない仕事がお休みなので、分厚い本もチャレンジできるという読書天国状態。

1週間かけて読み終えて、面白かったけどもっと早くに読めば良かったなぁと後悔したのは、アフリカやイスラムの情勢なんて毎年激変するから。ソマリランドの今はどうなっているのか気になりました。