夜空と陸とのすきま

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メアリと巨人/フィリップ・K・ディック

メアリと巨人

ディック初期の<普通>小説。そう、これには他惑星に移住とか、タイムマシーンとか、偽世界なんてモチーフは出てこないんです。二十歳の女の子とレコード屋のおっちゃんの恋の物語!

ディックの小説で女の子が主人公ってのも珍しいし、大体が会話文で進んで行くのも、そんなのも書いてたんだなーと意外でした。

古本屋で見つけて購入したのですが、買うときに店主に「文庫になっていない珍書ですね」と話しかけたら、「まぁ、文庫になる必要もないアレだから…」なんて言われてしまった。もはやコレクターズアイテムか。

主人公のメアリアンは自意識過剰で、不安定でわがままで奔放な女の子。そして真面目なフィアンセ君やレコード屋のシリング、バーで歌う歌手やミュージシャンなど、さまざまな男を振り回しまくるという青春物語。危なっかしくて痛いメアリアンもさながら、お金はポンポン出すけど、若い女の子にどう接すればいいのかわからないシリングにもあきれます。けれど狭い世界観の田舎から大都会に出たいメアリアンの気持ちもわかるし、現実に苛つくのもわかる。色々と自分の二十歳を思い出すわけです。いや、ここまで自意識過剰じゃなかったけどさ。何か一つのことでも成し遂げた達成感の積み重ねしか、人は成長しないのかも。

もっとも、ずっと年上のシリングには、これ以上メアリアンに近づくことはできないだろう。自分がメアリアンを愛していることも、他の連中が愛していることも、そんなことは何の役にも立たない。あの子に必要なのは成功だ。