夜空と陸とのすきま

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逆まわりの世界/フィリップ・K・ディック

 

 

 ここ10年ほどかけて書店と古本屋でディック本をせっせと買い集めてきたけれど、どうしても出会えなかった文庫の1冊がこれ。そしてAmazon経由の中古書サイトで1円でした。1円…1円なのか。送料の方が高いねん。でも古本屋をめぐるガソリン代を考えると、もう残り数冊は全部ネットに頼ろうかな。

ディックといえば、2018年1月に「ブレードランナー2」が公開決定!SF界にディックブームが再び(なんか7年に一度ブームがくるそうです)訪れるのか!?という嬉しい状況ですが、ディック初期から読み進めている私は、それまでに「電気羊」にたどりつきたいところ。ぐぬぬ、読むのが遅いわあ。

さてディック中期のこの「逆まわりの世界」ですが、「ホバート位相」という謎の時間逆流現象がおきている世界が舞台で、死者は墓から蘇り、生者はだんだん若返って子宮の胎児〜精子卵子まで戻り、食べ物は嘔吐で出しという設定。主人公は墓堀カンパニーの社長さん、いつもどおりお墓から「出して〜出して〜」とゾンビの様に生き返る人を助けている最中に、行方不明とされていたユーディ教始祖の墓を偶然見つけたことから、その復活した始祖をめぐって公安機関、ユーディ教、ローマ教会の三つ巴の暗闘に巻き込まれることに…というお話。公安機関が消去局という市民特殊図書館で、書物の記録を消去していくのが仕事というのが面白かったです、ディック版図書館戦争ね。

面白い設定なんだけど案外適当な感じで、どうしょうもないダメおっさんな主人公にも妙に親しみがもてていたのに、映画みたいに派手なアクションなんかできるか、現実はこんなもんだと言わんばかりの絶望的なオチ。でも何か心に残る作品、無常感が好きでした。

何ものも留まってはいない、万物は流転する。粒子が粒子にくっつくー物体はそのようにして成長していく、われわれが、その物体の存在を知り、名づけるまで。しかるのにその物体は徐々に分解をしていき、もはやわれわれの知らぬ物質となる。

細胞のひとつひとつがよりあつまりて人は人となり、花びらのひとひらがよりあつまりて薔薇は薔薇となる。細胞のひとつひとつが腐りゆき、そして、泡に映りし太陽が、はじけし泡とともに消えゆるがごとく、人もかく果てゆく

 

この文庫は80年代に出版。ニグ×という表現だと、今はもう再版できないんじゃないかなと心配。新訳はどうでしょう。