夜空と陸とのすきま

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火星のタイムスリップ/フィリップ・K・ディック

 

 

 

火星の植民地では常に水不足。新鮮な食品も地球からの密輸に頼り、スクールでは悪い刷り込み教育をしていて、精神病患者が急増、生まれてくる子供達は自閉症だらけ。そんな不毛な火星で唯一巨額な富を築き上げている水利組合の組長アーニーは、国連の火星再開発の話を聞きつけるが…というお話。主人公はアーニーに振り回される技術屋のジャック。

火星なんだけど運河もあり、魚も泳ぐ。砂漠には原住民もいて原始的宗教もある。それは火星じゃなくて、アメリカのロス郊外のこと?だと思って読み進めるのが正しいのかも。自閉症や分裂症、この頃のディックは精神病の本を読みあさっていたそうで、タイムスリップのカギを握る少年の分裂症描写がとても細かい。私事ですが、最近の仕事で分裂症の人と少しだけかかわったことがありまして、本当にコミュニケーションをとることが難しく、自分もいろいろと勉強しないといけないなと痛感したところでした。

精神病とはなにかということが、おれにはわかった。それは外界の事物、とりわけ重要な意味をもつ事物にまったく無感覚になることだ、思いやりあるひとびとのいる世界から疎外されることだ。そしてそのあとにくるものは?恐るべき自我の喪失ーそれは内面世界と外部世界に分裂した世界、ゆえにどちらも他の世界には記憶されない。だがふたつの世界は存在し、それぞれの道をたどる。

くらくらして酔いそうな時間の歪み。今読んでいる時間軸は夢なのか現実なのか、わからなくなる(…ので眠たくなるけど。実際寝落ちしまくったけど)ディック特有の描写が続きます。

 技術者であるサラリーマンの主人公(ワーカーホリック気味)も、その奥さんも、自分を見失った結果ふらふらと浮気をしてしまい、家庭崩壊でぐらぐらなんだけど、最後はなんとかもちこたえてくれて良かった。旦那さんが仕事にひたすら没頭するでなく、家に帰って奥さんをハグすればすべて解決するんだよ。

あんたがたみたいに過酷な仕事を強制する人間が、分裂症者を作るんだ

精神科医が権力者アーニーに吐き捨てるように言う言葉にうなずいてしまいました。