夜空と陸とのすきま

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ゴールデン・マン ディック傑作選3/フィリップ・K・ディック

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ようやく3冊目の短編集。

『ゴールデン・マン』
ミュータントのお話。もう超人過ぎていっそ清々しいラストでした。

『妖精の王』
ディックが剣と魔法のファンタジーを書くとこうなった。さびれたハイウェイのスタンド亭主で、これまた冴えないおっさんが妖精の王になる話。いいわー

『ふとした表紙に』
火星の不死生物ワブの革で装丁した本は、聖書でもブリタニカでも勝手に本の内容(原文)が変わってしまうという話。どうやったらそんなことを思いつくのか。

『小さな黒い箱』
共感を得る黒い箱を通して、宗教者の受難を体感する話。後の「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」のマーサ教につながるのかな。

 

一番印象に残ったのは、やっぱり「まえがき」。このディック傑作選シリーズは、作者本人のまえがきや作品メモが充実していてなかなか楽しめますが、今回は仏教や哲学に感心が向いた理由として、貧乏と現実に何度も絶望してたどり着いた心境など。本当に人間を愛していて、故に理不尽な仕打ちをする神を呪ったディック。

いまわたしが怒り狂っているのは、いちばんの親友のドリスという二十四歳の女の子のことだ。彼女はガンにかかっている。わたしの恋している人間は、いつ死ぬかもしれないのだ。そこで、神とこの世界に対する激怒がわたしの体内を駈けめぐり、血圧は上がり、脈搏は速くなる。そこでわたしは書く。わたしの愛する人たちのことを書き、彼らを現実の世界ではなく、わたしの頭から紡ぎだされた架空の世界の中に住まわせようとする。現実の世界はわたしの基準に合わないからだ。わかってる、自分の基準を修正すべきなんだろうさ。わたしは足並みを乱している。わたしは現実と折りあうべきだ。だが、一度も折りあったことはない。SFとはそういうものなんだ。

<まえがき>より