短編集だった「光の帝国」に続く、常野物語長編。
前作が、面白そうな設定なのに短くてもったいないなと思ったところの長編。日清戦争の勝利で軍国化が始まった日本、東北福島にほど近い集落「槇村」を舞台に、槇村家のお屋敷の人びとと、常野一族の春田家をめぐるファンタジー。
全体の大筋よりも、途中で出てくる会話や主人公の独白部分に印象深いシーンがありました。なんといっても音楽と絵画について聡子が語るシーン「西洋の音楽は、何の迷いもなく前に進んで行くような感じ。日本の音楽は、自分がいろいろと迷ったり、振り返って後悔したり、懐かしんだりする気持ちを確かめるために音楽をする」というくだりが唸りました。ヨーロッパの帝国主義と日本との違いのメタファで上手いなぁ。
春田家の超能力も、裏方でストーリー支えているだけでした。たとえ遠目やしまう力があっても、現実を変えることができないのは前作と同じでシビアです。聡子の別れと再会シーンは目が潤みました。荒波に立ち向かう勇気と心構えがすばらしい。
僕にはわかる。君のような人間が、吾が国をこれから世界の一等国に引き上げるだろう。けれども、同時に、君の一途さ、無垢さが、吾が国を地獄まで連れて行くに違いない。
そんでもって昨今の政治のせいで、こんな描写が気になってしょうがない。