夜空と陸とのすきま

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ムーン・パレス/ポール・オースター

 

 

ムーン・パレス (新潮文庫)

ムーン・パレス (新潮文庫)

 

 

図書館で文庫本を借りる。

人類がはじめて月を歩いた春、育ての親の叔父と死別して孤独になった青年が、どんどん生活が悪化して…ついにアパートを追い出されという話。

“さよならだけが人生だ”と言わんばかりに、この物語の主人公は孤独から始まり、愛すべき大事な人と出会い、別れ、また孤独に戻るを何度も繰り返す、それはまるで月の満ち欠けのよう。

たった一人の家族だった叔父が亡くなった後に、弔いのつもりで叔父からもらった千五百冊の本が詰まった段ボール箱を一箱ずつ開けてむさぼり読み、読み終えた本は古書店に売って食費にしつつ、すべて読み終えると同時に餓死寸前に陥る主人公マーコ。

僕は崖から飛び降りた。そして、最後の最後の瞬間に、何かの手がすっと伸びて、僕を空中でつかまえてくれた。その何かを、僕は今、愛と定義する。それだけが唯一、人の落下を止めてくれるのだ。それだけが唯一、引力の法則を無力化する力を持っているのだ。

本の入った段ボール箱を机代わりや家具扱いするなど、あぁ自分も引っ越し時にやったなぁと懐かしく思っていたら、いきなり自暴自棄な展開でハラハラしましたが、放浪して死ぬ直前で友人に助けられ、「愛してくれる人たちがいることで、すべてが変わる」ことに気がついたマーコ。良かったね!彼女もできたし、これからバラ色人生かにみえたら、今度は偏屈で盲目の老人が登場。実は元画家だった老人の自分語りも、ぐいぐい引き寄せられます。

老人は若かりし頃、仲間と旅に出てアクシデントにあい、荒野の洞窟で孤立し、他人の目を気にしなくていいと気がつくと、初めて画家として自分の絵を無我夢中で描くことができる。

いまや彼は自分のために描いているのだ。もう他人の意見なんかにびくびくする必要はない。芸術の真の目的は美しい事物を作り出すことではない、そう彼は悟った。芸術とは理解するための手立てなのだ。世界に入り込み、そのなかに自分の場を見出す道なのだ。

この極地にたどり着けたことが羨ましい。出てくる登場人物がすべて孤独と向き合っている。そしてその経験からとても大事なことに気がつく。人生に孤独は必要、一人暮らし経験はした方がいい。

ラストに肉親も恋人も財産も全てを失ったマーコ。すべてがまたゼロに戻るけど、月を見上げて終わるので、本編に何度も出てくるキーワード、「太陽は過去、地球は現在、月は未来」という中国の占いの言葉どおり、未来はこれからという暗示がかっこよかったです。