夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

三体 / 劉 慈欣

三体

7月発売で早くも10万部突破。分厚いハードカバー・海外文学翻訳・ハードSFという、なかなか売れないカテゴリーなのに大ヒット!買おうか買わないか迷っていたら、図書館の新着図書に入っていたので借りて読みましたが、やっぱり買う!これは手もとに置いておきたい。第11版にもなると色々と誤植が訂正されているようだし!

世界的に優秀な科学者が謎の自殺を遂げる事件が続発、ナノマテリアル開発者の汪淼は、ある会議に招集され、<科学フロンティア>への潜入捜査を引き受ける。その組織は地球と最も近い恒星系の惑星(三体星人)とのかかわりが…という「未知との遭遇」的な三部作の第一作目。

中国で合計2100万部の大ヒット作が、世界を駆け巡り11年目にしてようやく日本上陸。膨大な知識量は決して(Wikipediaのコピペみたく)堅苦しくなく、超絶面白いエンタメになっていて、脳内での映像化が止まりません。

どなたかがTwitterでつぶやいていましたが、主人公と刑事との関係が、「科学に詳しい関口と、京極堂と榎木津を合わせたような刑事」みたいに表現された方がいて、まさにそれそれ!京極堂シリーズ好きな人はクリティカルヒットです。(興奮しすぎて何を書いているのか…)でもこの2人、次回作には出てこないんだろうなぁ…。

 この表紙絵に描かれている巨大船体<ジャッジメント・デイ>が、○○運河で、○○によって○○されちゃう「古筝作戦」なんて、すごくドキドキしてうわぁぁ〜ってなって(興奮しすぎて何を書いているのか…)

本書のちょうど半分あたり(P227)まで読んだら、一度 ケン・リュウ編『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』に収録されている、劉 慈欣の短編『円』を読むとさらに理解が深まるのでおすすめ。自分の記事も貼ってますが、『円』についての記述がない〜。
ただいまふとっぱらの早川書房が『円』全文をネットで特別公開しているのでそちらでどうぞ。時は秦の時代、円周率計算のため百万単位の人間でbitを表すという演算フォーメーション、まさに中国の人海戦術ならでは(笑)

yanhao.hatenablog.com

『折りたたみ北京』に載ってる劉 慈欣の解説文で、さらっと三体三部作のオチが書かれているよーな。見なかったことに。

 

『三体』で続々出てくる物理・量子力学の知識。理系オンチの私を助けてくれたのは漫画でした。ニュートンライプニッツノイマンと、巨大加速器も『決しマネ』で出てきた!あらためてこの漫画はすごいのです。 

yanhao.hatenablog.com

 

タクシー運転手 約束は海を越えて/택시운전사

タクシー運転手 約束は海を越えて [DVD]

ソウルのタクシー運転手キム・マンソプは、高額な運賃を支払う約束をしたドイツ人記者のピーターを乗せて光州へ向かう。そこで2人は軍による暴虐を目撃してしまう。はたしてこの一大スクープをかかえて厳戒態勢の光州から無事に脱出し、世界に真実を発信することができるのかというお話。

1980年5月、韓国の光州市で起こった民主化を求める民衆蜂起の光州事件と実話を元にした映画。私が幼少の頃に、海の向こうのわりと近いところでこんな残酷な市民虐殺が起こっていたとは。韓国軍部は長年この事件を隠遁していて、正確な被害者の数もわからないそうですが、市民を殺した兵士だってずっとPTSDで苦しんだだろうに。

映画の方はとにかく死亡フラグが立ちまくり、登場人物に愛着を持つ度に、自分の夢を語っちゃダメだ〜フラグがっっと思った矢先に殺されるし。無邪気な笑顔と死に顔のギャップが辛い。そして中々決意できず煮え切らないタクシードライバーの主人公でしたが、普通の人はすぐにヒーローになれないもの。そこもリアリティがありました。

エンドロール前に、記者のモデルとなった実在人物ドイツ人ジャーナリストのユルゲン・ヒンツペーターのインタビューがあり、あの時のタクシー運転手を生涯探していたが結局会えずに亡くなったそうです。後でWikipediaで調べてみると、この映画の大ヒット後に運転手の家族が見つかり「実在した運転手は光州事件の4年後にガンで死んでいた」と載っていて、一期一会の切なさに胸が苦しい。

光州事件はブロードバンドのインフラもなく、防犯カメラもない時代。今は記者がスクープ映像を撮らなくても、一般市民がネットにUPできるのに、UPしているのに、シリア内戦の虐殺の映像をみても何もできずにもどかしい。

 

スチーム・ガール/エリザベス・ベア

スチーム・ガール (創元SF文庫)

蒸気歩行機械が行き交うアラスカの港町。高級娼館勤めのカレンは、逃亡者のインド人少女プリヤを悪の権力者から守れるのかというお話。

スチーム・パンクSFで百合SF。伊藤計劃『ハーモニー』以来、久々に百合SFものを読んだのであります。スチーム・パンクSFと謳うほど蒸気機械の活躍は少なくて期待はずれ、地味にまとまった感はあり。カレンの日記という設定で物語が書かれているので、一人称らしい思い込みや勘違いなどなどは面白かったけど、「一体このバトル中に何が起こっているんだ」とわからなくなることも多くて困惑。

連続殺人事件を追う副保安官とネイティブアメリカンの民警、くノ一のように飛び回る謎の中国人女性、解放奴隷、オネエキャラとマイノリティがいざ集結!には胸が高鳴る。そしてディーゼルエンジン+蒸気駆動の甲冑ミシンに乗り込み、炎の中に飛び込んでいくカレン。ミシンがパワードスーツってどーゆうことやねん⁈工場にある縫製機みたいなんかなと想像力が限界なので、誰かデザインしてください。

娼館の部屋も狭く、ミシン内部も窮屈で、最後に出てきた潜水艇も閉鎖的空間。狭い狭い圧迫感と不衛生な感じが続くので、最後の大団円だけでもさっぱりしてくれて良かったです。

 

 

海獣の子供

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長文打つならスマホよりキーボードのほうが得意なんだけど、なかなかPCの前に座れないな(娘っ子がYouTube見てるから)と言い訳してたら日数がどんどん経過していた。
上映期間終了間際で見てきましたアニメ映画『海獣の子供』。

6年かけたという、アニメーターが全力で描きあげた映像がとても綺麗で美しすぎて、どこまでも描き込むんだな、すごいなとびっくりしました。

五十嵐大介氏の作品はそれこそデビュー作のアフタヌーン誌掲載の時から読んでいてめちゃめちゃ大好きなので、今回は期待値をMAXまで上げすぎてしまい、劇場では「そうじゃないそうじゃない」と呟くめんどくさい観客になってしまいました。

あの“誕生祭”の描写は、海と宇宙が繋がっていく衝撃、原作アナログ原稿の黒一色だからできたモノクロの勝利だったんだなぁと。アニメのものすごく綺麗なカラー画だと、青い海〜はいここからカラフルな宇宙〜って場面が変わっていくのが一体感をかき消してしまい、一番の盛り上がりで変に気持ちが冷めてしまいました。なんか『2001年宇宙の旅』のスターゲート・シークエンスみたいだった。

原作のアル中母さんの海女さんだった過去のエピソード、最後(デデそっくりになる)年老いた琉花の語りで終演するのは、海と母体が紡いでいく「命の物語」として壮大な大河になったので、映画でもそうであって欲しかったです。しかし2時間枠で収めるために、エピソードをしぼって「琉花の成長物語」にしたのは理解できました。

パンフレットに載っていた映画評論家の添野知生氏の寄稿がとても良かった。『パンスペルミア説』っていう言葉を覚えた!

 

11 eleven / 津原泰水

11 eleven (河出文庫)

津原氏と百田尚樹のバトルから、幻冬舎社長による実売数公表騒動に発展するまでの流れはずっとTwitterで追いかけていて、津原氏と早川書房編集部を応援したくて、本屋に走り『ヒッキーヒッキーシェイク』の文庫を買いました。この騒動の中でも津原氏のツイートは決して感情的にならず始終冷静で、(「炎上してるからこの騒動にのってみんな宣伝して、というか宣伝しなさい!恩を返したい」という感じのツイートには笑った)いやはやすごい作家さんだなと感心し、名作名高い「五色の舟」が収録されている短編集『11 eleven』を読んでみました。

表紙は四谷シモン氏。単行本は裏にも11枚の人形の写真が載っています。イレブンってヘブンみたいと思ったのが第一印象。

生と死とあの世の境、人形の目のガラス玉のような、うーん自分の乏しい語彙力では上手く表現できないけれど、ぞっとするほど怖いけど魅了される死についての物語が多かったです。思わず音読したくなる言葉のリズムも心地よかった。

うわーそれで終わるの怖っ!というホラー『追ってくる少年』と『クラーケン』。おいおい火星かよのSF『テルミン嬢』、どれも余韻が残る、それも怖かったりほっこりしたり。なんと引き出しの多い作家さんでしょう。日本版フリークショーのお話『五色の舟』は土肝を抜かれました。近藤ようこさんの漫画版読まねばっ