夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

フロリクス8から来た友人/フィリップ・K・ディック

フロリクス8から来た友人 (創元SF文庫)

天才<新人>と、超能力を持つ<異人>が登場し(ニュータイプちゅーやつやな)

60億人のとりとめのない<旧人><下級人>は支配される。(悪夢の階級制度やな)

グラス公共安全特別委員会議長<異人>の恐怖政治が続く中、10年前に宇宙に飛びだしたブロヴォーニがフロリクス星人を連れて帰ってくる!という面白そうな舞台設定で、主人公ニックがタイヤ溝掘り職人(なぜ?)。

つるっつるの中古タイヤの溝を限界まで彫って、まるで新品の様に装って売るというブラック商売。学業成績優秀な息子は公務員試験を受けても、父親のブラックリスト入りが響いて試験に落ちてばかり。妻は嘆くばかり。

あるときニックは職場のボスに連れられて、反体制の地下組織アジトに行き、そこで美少女(ドブネズミと表現される)チャーリーと運命の出会いが…というお話。

救世主が帰って来る!みんな一致団結して戦おうという外野をよそに、チャーリーにラブ夢中なおっさんニック。救世主ブロヴォーニ帰還をくい止めようとする政府をよそに、チャーリーを愛人にして我が物にしようとするおっさんグラス議長。いや、地球の運命をよそに君たちどうしてそんなに幼稚なの?

そんなちぐはぐなお話で、最後も主人公が妙に悟っていて変なんですけど、大森望氏の翻訳も上手で読みやすいし、憎めない魅力ある作品でした。ちぐはぐ感を楽しもう!

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やだ、トランプ大統領に似せようと思ったら可愛く描いちゃった。始終パジャマ姿でベットから指令を出す、ぐうたら独裁者グラム議長。彼の描写が執拗に細かくて面白い。ところでフロリクス星人は例によってスライム形態なんですが、だとするとあの表紙の女子は誰?

禅<ゼン・ガン>銃/バリントン・J・ベイリー

禅銃(ゼンガン) (ハヤカワ文庫SF ヘ 3-1) (ハヤカワ文庫 SF (579))

 

新年あけましておめでとうございます。ブログ6年目になります。そしてジャスト400回目のエントリー!続くなぁ。
今年もSFをじゃんじゃん読んでいくよー!

 

さて、年明け一発目は猪が出る小説を探したけど本棚になくて、猿が出る小説。2年前のお正月もベイリーの「ゴットガン」を読んでいました。

 

最強の僧兵<小姓>が甥っ子の審美庵とともに、伝説の銃<禅銃>を手に入れたエテ公に恩義から従って旅をする。そこで惑星の反乱の鎮圧に赴いた銀河帝国艦隊と反乱軍、海賊との大騒動が起こるワイドスクリーン・バロックというお話。

純人間が激減していて、知恵を持った動物達が多数派の、どうぶつの森状態銀河帝国艦隊。豚とか象とかペンギン村?アンパンマンのモブ?みたいな、ここまでファンシーな銀河帝国も珍しい。

さらに最強の戦士<小姓>、鎧姿に重武装、常に物静かに坐禅を組む。このキャラは本当にかっこいいですよ。拘束されて危機に瀕している甥っ子の審美庵に向かって

「それは心の鍛錬がたらんからじゃ」

「これはそなたの精神の柔軟性をためす千載一遇の好機と思え。<小姓>となる修行の上で、これはよい試練となるであろう」

とか言ってサラッと見捨てていくの。ベイリー風日本の武士道最高です。

時空の後退理論と、禅問答の「動靜一如。靜なるもの、動くは如何?」をかけているあたりは上手いこと言った!でもよくわからんって感じでした。後退理論のとこ、長くて難しくて読み飛ばしてもうた。

 

新装版の表紙は、武士と猿と豚が登場するのでSF西遊記みたいなアレンジの表紙ですが、以前のはもっとエテ公で黄色いオーバーオールに木製の銃と小説の記述に忠実。そしていかがわしいあかんSFオーラー満載で、こちらの方が好きですね。

禅銃(ゼンガン)

では、本年もつたないブログを宜しくお願い申し上げます。

死に山 世界一不気味な遭難事故≪ディアトロフ峠事件≫の真相/ドニー・アイカー

死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相

帯と解説が『奇界遺産』の写真家、佐藤健寿さんだーと見事に釣られて手に取る。年越しまであとわずか、2019年初っ端のエントリーに「死」がつくタイトルなんてヤダァと、年賀状作成もぶん投げて読み終えました。頑張った。

 

1959年、ソ連ウラル山脈で起きた大学生登山チームの遭難、9名全員が壮絶な死に方で発見された《ディアトロフ岬事件》。未解決の事件は超常現象的噂を呼び、UFOに遭遇した、雪男に襲われた、見てはいけないものを見たから消されたという陰謀論まで、様々な憶測が飛び交う。50年前の怪事件をアメリカ人ドキュメンタリー映像作家が解明に迫る、というノンフィクション。

 

トレッカー達の行程と、事件後の捜索隊の行程、そしてロシアに渡って現地に向かう著者の三つの視座から行方を追っていく。貴重な写真も合わせて掲載されていて、大学生達の楽しそうな登山の様子と、3ヶ月にも渡る雪山での捜索隊が対照的で緊張感が増します。

途中で持病悪化のためリタイアしたことで、唯一の生存者となった人物も、当時の事件担当者も陰謀説を信じていて、冷戦下のソ連の恐怖心もひしひしと。

最後に著者は真相を解明していますが、登山で《山怪》にあうのは、こうして人の脳内で作られるものなのかも。

ネットで憶測に振り回されず、足を使って現場に行けば真実は見えてくる。お見事でした!

 

キングコング髑髏島の巨神/Kong: Skull Island

キングコング:髑髏島の巨神(字幕版)

11月に観て感想書きそびれてて、今ごろエントリー。今年観たものは今年中に。

1973年、特別研究機関MONARCH(モナーク)のランダは、ベトナム戦争帰還兵のパッカード・ヘリ部隊を護衛につけて、謎の島髑髏島の地質調査に向かう。しかし真の目的は巨大な猿らしき生物“コング”の調査だったというお話。主人公は島の案内役に雇われた元特殊空挺部隊隊員のコンラッドと、女性カメラマンのウィーバー

最初に沢山いらっしゃったヘリ部隊の皆さんが、「帰ったら結婚するんだ」「息子に会いたい」などと言ってセオリーどおりに死亡フラグを立てまくってバタバタと死んでいき、これはお約束をしっかり守る映画だなぁと認識。

キングコングは島の守護神で原住民に崇められていて、他に蜘蛛やトカゲ類など出てくる出てくる巨大生物。最後に出てくる2本足のトカゲみたいなのは、まんま『エヴァ』の使徒っぽい。髑髏島に不時着した日本兵の名字も”イカリ”だから確信犯。原住民は巨大生物の侵入を防ぐために巨壁を作って、『進撃の巨人』要素も入ってる。なんだか嬉しくなってくる。

そんな様々な過去作の美味しいとこ組み合わせ映画でしたが、娘と親子で楽しめて良かったです。子供と一緒に観れる映画(エログロ無しで面白いやつ)は貴重。今ここで一緒に観ていたら、中学生で勝手に映画館に行き始めるから。次世代を育てるのだ。

 

で、エンドロール後のサプライズは怪獣映画好きにはたまりませんね!

 

 

シュガー・ラッシュ:オンライン/Ralph Breaks the Internet

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映画館で娘と一緒に吹き替え版を観る。

昔ながらのゲームセンターの古いアーケードゲームから、Wi-Fiを伝ってインターネットの世界に!刺激的な世界でラルフとヴェネロペの友情はどうなるの?というお話。

ディズニープリンセス総出演で自虐ネタもたくさん笑えましたが、新しい世界にどんどん進んでいく女の子(ヴェネロペ)と、古い世界に戻りたくてぐずる男(ラルフ)の話って、色々考えちゃって心が痛む。でもしょげてるラルフも含めてラストは拍手喝采でしたけどね。さてさて小学生の娘にはどう映ったのだろうか。もっぱらSTARWARSのトルーパーとC-3POの登場に目がハートでしたけど。

ヴェネロペとの友情を束縛と混同し、徐々に彼女の邪魔をしだすラルフ。それをメタ視点で見せて「俺ってすげえ気持ち悪っ」ってラルフ本人に言わせたシーンは、膝を打ちましたよ!そうだよ気持ち悪いんだよ、ようやく気が付いたかと。ホント気が付いて欲しいよ世の中の男性に。

あとネットに夢中になっている人々もメタ視されてて、ずっとだらだらとスマホいじっているのも時間の浪費、気をつけようと思ったのでした。そんなところが奥深くて怖い映画です。

最後のザンギエフの読書会!参加してみたい。