夜空と陸とのすきま

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激震!セクハラ帝国アメリカ 言霊USA2018/町田智浩

激震! セクハラ帝国アメリカ 言霊USA2018

文春連載の言霊USA第6弾の単行本は、ほぼほぼトランプでした。後半から#MeToo運動に発展したセクハラ騒動。私の大好きなケビン・スペイシーは雲隠れしてトンズラ、先日はモーガン・フリーマンもお・ま・え・も・かっ!と誠に遺憾であります。

そんな中で印象に残ったコラムは「Hazing 新人イジメ」。大学の新歓コンパで一気飲み強制→急性アルコール中毒って日本だけかと思っていましたが、アメリカでもあるんですね。大事に育てて、いい大学に入った子供を殺されるなんて、本当に親としてたまったもんではない話。町山さんはこのコラムに娘さんとのエピソードもはさみますが、久々に登場の娘さん(もう大学生なのか!)にビシッと突っ込まれてて微笑ましかったです。

 

 

スイス・アーミー・マン/Swiss Army Man

スイス・アーミー・マン(字幕版)

タイミングを逃して劇場で見れなかったと悔やんでいたら、すぐにレンタル化されました。

誰も助けてくれない無人島で絶望し、今まさに首をくくろうとした男(ハンク)の前には水死体(メニー)が。「もうすぐ僕もそっちへいくよ」と覚悟を決めたとき、死体からオナラが出始めて…オナラの勢いで海を渡っているシーンが、まさにタイトルの絵です。ここまでが開始5分め。それから上陸し、森林をさまようハンクと死体メニー(この辺からなんかしゃべりだす)。やがてスイス・アーミー(十徳ナイフ)ばりに多機能なメニーの能力を活かしてサバイバルが始まるというお話。

いやいや小学生の娘と観に行かなくて良かった(^^;)というほど下ネタ三昧でしたが、下ネタの中に哲学や人生の真理なんかをぶっ込んでくるのがなんとも素晴らしい。森の中に不法投棄されたゴミで楽しく家やバスを作っちゃうし、その才能があれば生きていけるじゃんと思ったり。ハンクとメニーは、ハンクが片思いしているサラに、今度こそ声をかけて恋人になって、デートして結婚して双子を産んで幸せになってと強烈な妄想パワー(主に下半身)を糧に、楽しくサバイバルしていきます。

見終わった後の感想はというと、男心は傷つきやすく、繊細で繊細でロマンチストでほんまに大変ねーというのと、知らない男と死体からまだ一度も話をしたことすらないのに、熱い想いを一方的にそそがれて困惑するしかないサラにすっごい同情しました。怖かっただろうなぁ。隠し撮りされてスマホ待ち受けとか引くわ−。あのドン引きしてるサラを見たら、ラストの友情とか切なさとか飛んでいっちゃた。

死体役のダニエル・ラドクリフ君よく頑張った!

公式サイト(英語)版は、お尻をタップするとおならをして、「hello」などとタイピングすると返事をくれるメニーと遊べるよ。

swissarmyman.com

ゲームの王国 上・下/小川 哲

ゲームの王国(上) (早川書房)

上下巻を読み終えた日に山本周五郎賞受賞!おめでとうございます!
書評家のトヨザキ社長もおすすめ、去年のアメトーークで読書芸人がジャケ買いする本として紹介されてからずっと気になっていて、ようやく手に取りました。カンボジアポル・ポト支配下における大虐殺から生き延びる"ゲーム"の上巻(70年代)から、脳波を使ったゲーム"チャンドゥク"と見事に伏線を押さえていくSF展開の下巻(2023年と少し未来)まで、これを31歳の作家が書いたなんて、またまたすごい新人さんが出てきたよ。

 まるでゲームだ。アドゥはそう思った。革命の名のもとに、オンカーは複雑怪奇なルールを設定した。ひとつでも違反すると殺される。まさに命を賭けたゲームだ。生き残るためにはすべてのゲームで勝つことが必要だった。

 上巻と下巻の登場人物数もかなりいるのに、とにかくどんどん死んでいく。ひとつでも選択を間違えれば静粛されるから。そんなゲームを生き抜く主人公ムイタックとソリア。私も同じ年代をのほほんと生きていたのに、ほとんど知らなかったクメール・ルージュの恐怖に震えました。理想的な共産主義国家を短期間で作ろうとすると、疑心暗視で虐殺と(((( ;゚Д゚)))。これを機に映画『キリング・フィールド』と『アクト・オブ・キリング』あたりも見てみたいと思います。

殺伐とした話なのに、超能力(ゴムが切れると人が死ぬと予見したり、泥の声が聞こえるとか)や呪術といった特異なキャラが出てきたりして変すぎて和む。ちょっとジョジョっぽい。下巻の変態野郎カンは『ゴールデン・カムイ』っぽい。

下巻は大虐殺を生き延びた主人公達と次世代の物語。ムイタックとソリアの理想は同じでもやっていることがかみ合わずもどかしい。脳波を測定してゲームに反映させるあたりは、イメージがうまくできなかったけれど、ムイタックが叔父のノートを読んで人生の真理に気がつくシーンは好きでした。

人生は、わずかに残った印象的な断片と、その断片を補完する現在の自分と、直近の一年間で成立している。記憶はアナログメディアで、再生するたびに劣化し、その劣化を補うために現在の自分が入りこんでくる。

こうして記憶は美化されるのね。

 

 

ドリーム/Hidden Figures

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1961年アメリカNASAマーキュリー計画を裏方で支えた黒人女性達の話。

黒人と女性という二重の差別と戦い、見事な仕事っぷりで宇宙有人飛行を成功に導く姿が清々しい。NASAの職場で差別といじめにあっても、仲間と地域の人、家族が温かく支えてくれている。このバックアップが描かれなかったら、辛いだけの映画になったはず。

黒人用トイレが遠方の建物地下にしかないため、トイレのたびに800メートルをハイヒールで全力疾走とかありえない。ラストに差別してきた白人男性がその800メートルを全力疾走してヒーヒー言うのをみせるわけで、なかなかうまいなぁと思いました。

Pharrell Williamsの60年代に合わせた音楽もすごく良かった。「ライトスタッフ」と「ドリーム」はセットでもう少し大きくなったら娘に見せたいです!

しかし、有名俳優が出てないから日本公開をぐずったとか、マーキュリーもアポロも観客はわからんだろうとなめてかかった適当な邦題騒動とか、この素晴らしい映画に対しての映画配給会社の情けなさよ…。

スローターハウス5/Slaughterhouse-Five

スローターハウス5 [Blu-ray]

カート・ヴィネガット・Jrの原作を先に読んでいたので、原作のイメージを肉付けしていくように鑑賞でき面白かったのですが、これは原作を読んでいないと(映画に説明がないので)さっぱり分からんのでは。

原作で繰り返し出てきた「So it goes(そういうものだ)」がひと言もないのが意外でした。映画ラストもトラルファマドール星(あの星は最高のSF表現!)で、めんこいポルノ女優とベイビーを抱き寄せて終わるので、あのドレスデン空爆の悲壮感漂う悲しい話というよりは、夢の中の幸せな話だったと思えてしまう。

PTSDのフラッシュバックが辛そうに見えないし、妙に物わかりが良くて親切?なドイツ兵の描写も珍しい。70年代の映画的背景も色々あるのかな。

主人公ビリーの捕虜仲間の先生が、とてもいい人だったのに、もう少しで終戦だったのにあっさり殺されるのが一番辛かった。