夜空と陸とのすきま

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ゼロの未来/The Zero Theorem

ゼロの未来(字幕版)

IT企業に勤める天才プログラマー コーエンは、数式「ゼロ」の解明に挑むが…人生の意味と愛とはなんぞやにせまるお話。

テリー・ギリアムワールドは情報量が多くて隠れアイコンだらけで、見ているだけでクラクラします(大好き!)。コーエンが住む古風な廃墟の教会と、広告が始終追いかけてくる街の風景やパチンコ屋みたいなIT企業のオフィスの対比。あのビビッドな色使いに、画面のざらつき感がちゃちでわざとらしくていいなぁ、本当にいいなぁ。

コーエンは自宅の教会に引きこもり、「生きる意味を教えてくれる電話」を待ちながらコンピュータで「ゼロ」の解明に挑むが八方ふさがり。そんな折りに孤独に生きてきたコーエンにも、めっちゃ挑発してくるコールガールとの恋、天才プログラマー青年と友情も芽生えはじめるがー、最後は「未来世紀ブラジル」と真逆だったのでちょっと驚きました。いやブラジルも大分前に見たのでうろ覚えなんだけど、愛する彼女と二人でうふふアハハなラストだったはず。どんな人間も死ぬときは一人ということなのか、だとすると映画序盤のコーエンがすっぽんぽんな裸だったのも意味深。

 

公園シーンでピクトグラムにすべて×、禁止を付けるこのシーンが印象的でした。何するのも×をつける管理社会だったら、生きる意味なんてわからないよね。

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解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯/ウェンディ・ムーア

解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯 (河出文庫)

コミックス「決してマネをしないでください」(蛇蔵/講談社)に登場したジョン・ハンターが強烈すぎて、もっと読みたくなり書店で購入。

18世紀イギリス・ロンドンの外科医であり、奇人鬼才博物学者ジョン・ハンターの生涯を描く。天才的な解剖の腕を持ち、稼いだお金はすべて標本作りにつぎ込み、古今東西の珍しい動物を集め飼育し(ドリトル先生のモデルになる)、夜な夜な墓地で死体泥棒を繰り返しては解剖し(ジキル博士とハイド氏のモデルになる)、医師会からは鼻つまみ者にされながらも多数の弟子を育て上げ、ダーウィンより70年も前に進化論にたどりつき、のちに「近代外科医学の父」と呼ばれるようになる。とにかくエピソードにことかかない人物で、どの逸話も面白く一気に読めました。

馬○と天才は紙一重というか、影響力が強すぎるので巻き込まれる弟子、家族も大変だなとも思ったり。ジョンの死後にうってかわって、未発表の論文を盗作し、燃やすという復讐にはしる義弟も、良心の呵責に耐えきれずアル中死と壮絶。

観察して推論して必ず実験して確かめる

若いころから書物にたいして不信感をもっていたおかげで、ハンターは生涯、古典的な考えや根拠なく信じられていることをまず疑ってかかることができた。彼はいつも、他人の書いたものよりも自分の目で見たものを信じた。ラナークシャーの野山を駆けまわっていた子どものころから、自分の感じた疑問を忍耐強い観察と実験で解き明かそうとつとめた。

ハンターの真の敵は迷信と偏見。「現代のジョン・ハンターたちを、ぼくたちの社会は正しく評価し、応援できるだろうか」と問う、山形浩生氏の解説が胸に響きました。そうありたいものです。

刺青の男/レイ・ブラットベリ

刺青の男

旅行中に私が出会った刺青の男。彼の全身には見事な18の刺青が彫ってあり、夜の月明かりの中、刺青の絵は動きだし18の物語を演じ始める…というプロローグからなる18の短篇集です。

せつなくも美しい名作「万華鏡」。以前、たまたま流れ星を見かけたのですが、「万華鏡」を読んだらもう星々が輝くイメージがぶわぁとひろがって、あの流れ星を思い出すと泣けてきますね。実写にすると痛々しいというか、グロくなりそうだけど。

18の物語はとても詩的に美しく、かつ”死”に満ちていている話が多く、子供達は無邪気でとても残酷で、ブラッドベリのダークサイドを垣間見るようです。

早川書房が76年に発行した絶版の文庫版を読んだのですが、古書店で購入したらえらい安くて、その理由は16話目の「町」に、鉛筆線と書き込みが多数あったから。前の持ち主さん「復讐は徹底的におこなわれるだろう。」の文章に(地球の滅亡)と描き込んでいる。なんかレポートか感想文でも書いたのかなぁ。「町」も怖い話だったけど、なぜこれを選んだんだろうと無性に気になりました。こういう出会いも古本ならでは。

世界不思議地図 THE WONDER MAPS/佐藤健寿 阿部 結

世界不思議地図 THE WONDER MAPS

「奇界遺産」の佐藤健寿氏プレゼンツ、すべての漢字にルビがふっていて小学生から読める世界地図「不思議オカルト」版。本当に良くまとめられていて大人も楽しめます。

自分が小学生の頃に夢中になって読んだ謎・不思議本で得た知識が、さらにリロードできた感じでした。新しい不思議がたくさん、Googleアースで世界一周旅行できても、視線をかえればまだまだ未知なる領域は残っているんだなと嬉しくなります。佐藤氏の写真もベストショットばかりで満足です。

この前、Twitterで見かけたツイート「みんながスマホで写真を撮りだしたら、UFO写真がめっきり減った」は、ほんまですなぁ。未確認生物も減っていくのでしょうか。

うちの屋根裏にも未確認生物がいるんです。深夜に大きな生き物がミシミシと体重をかけて移動する足音が聞こえるのですが、電気業者や大工さんに屋根裏を見てもらっても、ハクビシンや猫などの動物の足跡ひとつなく、綺麗な屋根裏ですよって言われるんです。家族全員が足音を聞いてます…。この事例に該当するUMAか妖怪はいたっけか。

クボ 二本の弦の秘密/Kubo and the two strings

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独眼の少年が三味線かついで、サルとクワガタとともに三種の武具を探し、両親を奪った魔の力に立ち向かう話。劇場で日本語吹き替え版を鑑賞。

最新のストップモーションアニメ技術を駆使し、質感も目の迫力も光源の美しさもCG以上でしたが、途中から物語にぐんぐん引き込まれたため、細部に目をやる暇がなくなるほど。もう一度みたい、Blu-ray買いたいと思いました。

サルが〜CV田中敦子なんですよ、草薙大佐!バルサ!が「覚えておきなっ」って厳しく叱責してきて、ほんでもってとても強い。まずサルに心をがっつり持って行かれました。(サルが出てくるあたりから、アメリカ風味のキャラの違和感がなくなりました)敵対する闇の姉妹もべらぼうに強すぎて怖く、ラスボスがかすんでしまうほど。

たっぷりアクションを楽しませてもらった後に、「まだボクの物語は終わらない」、「物語の終わりは新しい物語の始まり」。二本の弦の秘密もわかると、涙がぽろぽろと出てきました。ラスボスと対峙するときに手にしたのが○○で、ラストに村人がとった対応も、素晴らしいメッセージが含まれていたと思います。
ああ最高の体験をありがとう。