夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

know/野崎まど

know (ハヤカワ文庫JA)

極度に発達した情報化社会の対策として、子供の頃から脳に〈電子葉〉の移植が義務化された2081年が舞台。情報格差の果ては、レベル0〜6に仕分けられ、低いレベルの人はアクセス制限がかかり、高レベルの人から丸見えにされるという怖さ。ありそうありそう。<電子葉>の設定、とても面白かった。

そして京都とSFというありそうでなかった組合せも、新鮮でした。

読み終わった後はオチが正直よくわからなかったけれど、表紙絵をじっくりみると、蓮の花、曼荼羅、涅槃っぽいデザイン。すなわち輪廻転生。ああ答えはここに描かれていたんだなぁと気がつきました。赤い糸は情報網かな。最後に14歳少女と性交渉!主人公は鬼畜かよと思いましたが、ヒロインの知ルはきっと新たな生命を宿して死んだのでしょう。脳は死んでも、体は最新医療の力で生きているし。

自分の死を考えると、今までの経験や知識は無になるというのが怖くもあり、もったいなくもあり、なので死を恐れてしまうのですが、SFにある死後は「ネットの海に自分を持っていく(「攻殻機動隊」)」だったのが、今回は新たな生命に知識を移行する=生まれ変わりときて、昔からある王道なのに妙に新しく感じられました。電子脳と義体で不老不死になるよりいいな。

読書で離婚を考えた/円城塔・田辺青蛙

読書で離婚を考えた。 (幻冬舎単行本)

夫婦でお互いに本を勧め合って、読書感想文を交換しあえば、いまよりもっと相互理解が進み、仲良くなるのでは? SF作家の円城塔とホラー作家の田辺青蛙の夫婦読書リレー。

夫婦でお互いにオススメの本を紹介しあう!なんて怖いことをっ!うちなんて、旦那さんとホントに趣味あわねーよ。映画も音楽も読書の好みの傾向もばらばらよ。「この本面白かったよ、絶対読んで!」なんて言ったら「嫌だ」と即答されるよ。

ああ、でも2人とも作家さんなのか、同業者ならどんな風になるんだろうと興味本位で読みました。結果、やっぱり同業者でも話がかみ合わないという、本の世界って大海みたいですね。

タイトルがとても際どいですが、内容はそんなに殺伐としているわけでもなく、読書リレーをすすめていくうちに、妻の方が夫に嫌われているのではと不安感を伴い、離婚届の夢を見たということでした。

そしてこの唐沢なをき氏の表紙絵がとても好き。本書を最後まで読むと、「溺れていくカエルの妻」がとても奥深く感じられて上手いなぁと。さらに夫婦に対する愛情もいっぱいね。

読書リレーということで、色々と本を紹介してますが、読んでみたいなと思ったのは吉村 昭の「羆嵐」くらい。それよりも、予想以上に円城氏の人間味がさらけ出されていて、そちらの方が印象的でした。

本の趣向が合わなくても、お互いが面白いと思えていて気遣いがあって、良い夫婦ですね。理解するんじゃなくて、違いを認め合うのが大事。

 

 

 

スローターハウス5/カート・ヴォネガット・ジュニア

スローターハウス5 (ハヤカワ文庫SF ウ 4-3) (ハヤカワ文庫 SF 302)

けいれん的時間旅行者であるビリー・ピルグリムは、自らコントロールはできなない時間の中に解き放たれ、自分の生涯の未来と過去とを従来する。歩兵としてヨーロッパ戦線におもむき、ドイツ軍の捕虜となりドレスデンの無差別攻撃を体験したWW2、アメリカに帰国して大富豪の娘と幸福な結婚生活、そしてトラルフォマドール星人に誘拐され、動物園で見世物にされたり…というお話。

私の祖父が死ぬ間際に、太平洋戦争で出兵し中国奥地で毎日上官に殴られていた記憶に苦しんでいたことや、祖母も末期は痴呆症になり、蝶よ花よと可愛がられた女生徒時代に戻っていたことを思い出しました。ということは、けいれん的な時間旅行は、誰もが体験することなのかも。

「子どもは3歳までに一生分の親孝行をする」というのも、理解できる。私はこれからもずっと、幼い娘との甘い蜜月を何度も何度も思い出し、いつでも幸せな気持ちを味わえるから。

 

人生の半ばを過ぎるころ、トラルフォマドール星人がビリーに助言することになる。幸福な瞬間だけに心を集中し、不幸な瞬間は無視するように—美しいものだけを見つめて過ごすように、永劫は決して過ぎ去りはしないのだから、と。

 とはいえ、ビリーが巻き込まれるドイツのドレスデン空爆は、目を覆う酷さでした。So it goes.(そういうものだ)と、ただ受け止めて流すしかない無常観。ヴォガネット自身の反自伝的物語ということですが、凄まじい体験です。人間が同じ人間に対して、ここまで残酷になれてしまう戦争は、本当に嫌だ。

先日、1972年制作の映画もNHKBSにて放送されました、録画しておいたので近々見たい!

 

ガイコツ書店員 本田さん/本田

ガイコツ書店員 本田さん (1) (ジーンピクシブシリーズ)

レンタルコミックで数合わせのため、なんとなく手にとって借りてみたのですが、あまりにも面白くて、翌日本屋に買いに走りました!

書店員として働いている本田さんの実録コメディ。本田さんはガイコツだし、他の店員さんも紙袋やヘルメット、お面、などの仮装かぶり物ですが、そこはキャラがわかりやすくてグッドです。本田さんがおつとめしている本屋さんはフロアがたくさんあって、外国人客が大勢で随分キャラが濃いお客さんばかり、ドコデスカソコハ…。

今時のコミックスは趣向が細分化されていて、かつ出版社も多くて、本屋でコミック棚を見ても何がなんだかわからないのですが、やっぱり本屋さん側も並々ならぬ苦労があると知りました。とても重労働で多忙なのに、常に情報通でなければならない宿命も。

本田さんは、推測で深夜に漫画を描かれているからか、始終テンションが高くて、漫画的な表現がとても達者な方です。ガイコツが愛らしいなんて、あさりよしとおの「ワッハマン」以来だわ。

ブレードランナー/Blade Runner

ブレードランナー ファイナル・カット(字幕版)

ディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」を原作とした名作映画。

これまた久しぶりにレンタルで借りて見返しました。学生の頃に見た時は途中で寝ちゃったのです。テンポが悪いわけでもないのに何でだろう。

今ではWikipediaで調べたらうんちくがいっぱい、そして町山さんの名著「ブレードランナーの未来世紀」(超オススメ!)も合わせて読むと、より深く理解できます。ということは学生の頃は何一つ解説なしで見たので、チンプンカンプンだったんだと思う。ラストの折り紙がユニコーンだったなんてわかんねぇよ。 

解説を読んでから見るとまったく印象が違いました。ハリソン・フォードは実に嫌々やってるのがよくわかる。彼が何の為にレプリカントを狩っているのか、わからないので(まあ仕事だからなんだろうけど)感情移入しづらい。対してレプリカント達や博士、セバスチャンなどの脇役は、とても魅力満載で良かったです。アパートの建物もかっこいい!

この作品が、その後のクリエイターに与えた影響は計り知れず。「サイレントメビウス」なんてもろですね。そういえば、最近の近未来物は酸性雨降ってないねぇ。

 さて予習は済んだし、10月公開の「ブレードランナー2049」が楽しみです。