夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

バーナード嬢曰く。/施川ユウキ

バーナード嬢曰く。: 1 (REXコミックス)

読書家キャラになりたいが、本を読むのがめんどくさく、手っ取り早く名文だけ覚えたい女子高生(バーナード嬢)とツッコミ役の男子高生、ミステリー好きの図書委員とSFマニアな女子2人の計4人しかでてこない、中二病的要素が詰まった読書好きのためのギャグ漫画。3巻まで買って読んでみましたが、第1巻が一番勢いがあって良かった。(2巻以降はバーナード嬢も結構な読書家になっている)

こうして読書感想のブログを3年もちまちま続けている私ですが、「学生の頃に読んでおけば良かった」ってよく書いてます。すいません、バーナード嬢曰くの「学生がコレ読んだら勉強して当たり前みたいな余計なプレッシャー与えているだけ…」とは思ってもみなかったので目からウロコ。おばさんになると、自虐の思いと反省ばかりなんだよ。

そして登場人物のSFマニア女子、神林さんとお友達になりたい。熱くSFを語りたい。
神林曰く「SF語るなら最低千冊」
「ムリでもせめて普通に本屋で買える青背(ハヤカワ文庫)全部読んでから言え」
そうなのか!SFの道は険しいな。

3巻なんて特にSFネタが多いんですが、こんなニッチな分野ネタでもちゃんとギャグ漫画として売れてる需要があるのかと、大変心強い。いつも通っている図書館ではSF本借りると、だいたい読者ハガキが挟まったままだったり、スピンが動かされていなかったりで「誰も借りんのかいっ」と、SFがマジョリティで寂しい。

「図書館で借りた空の写真集、カードに強くてきれいなあなたの名前がある」なんてドリカムの歌にあるシチュエーションよ、カムバック。

スウィングしなけりゃ意味がない/佐藤亜紀

スウィングしなけりゃ意味がない

最近は海外文学ばかり読んでいて、久々に手を取った佐藤亜紀の新作も大戦下のドイツが舞台という、ちっとも日本じゃない。

第二次世界大戦中ドイツ・ハンブルクナチスなスウィングボーイズのお話。主人公達がおぼっちゃまなボンボンで、始終斜め上な目線で話を進めてくれます。重たい戦争物をマジとかだっせぇなどの軽い文体で描くこの不思議な感じ。表向きはナチ支援の工場運営、裏ではBBCラジオをから流れる音楽を、レコードに焼き闇に流すという痛快なジャズ少年達。でもハンブルクの空襲はとてもリアルな描写で、気持ち悪くもなりました。

作中で登場する音楽をYouTubeでまとめてくれてた人がいた!これを先に知っていれば、一緒に読み進められたのに〜!これから読む人はぜひ再生リストにどうぞ。

www.youtube.com

 彼らはぼくに多くを求め過ぎだ。血統だの純血だの民族の一員としての自覚だのは、やりたい奴が趣味でやればいい。どこかの離れ小島でも買い取って。で、ひたすらアーリア人アーリア人を掛け合わせてジャズとか一切聞かせずに愛国作文でも書かせて朝から晩まで運動させて歌わせて行進させていれば理想のアーリア人が作れる、というなら、どの程度のものが仕上がるか喜んで見させて貰うけど、ぼくにやれとか言わないでくれよ、もううんざりだ。

某○○会議も、離れ小島で勝手にやってほしい。ちっとも日本じゃないかと思いきや、もろ日本の今の話だった。

アヘン王国潜入記/高野秀行

【カラー版】アヘン王国潜入記 (集英社文庫)

高野さんビルマへ行き、反政府ゲリラの支配地でケシ栽培を手伝いアヘン中毒になるというルポタージュ。1995年のビルマの話なので今から20年も前ですが、学生だった自分も同時期に中国雲南省近くまで旅したことがあり、あの山々の先にこんな無法地帯があったのかと感慨深い思いで読みました。

ワ州山岳地帯の小さな村に7ヶ月の滞在記。温かい人柄の村人が普通に農業でやるケシ栽培、そのギャップがすごかった。とてもシュールなアジアのアルカディア。高野さんはミャンマーイザベラ・バードになっていると思います。

アヘン中毒もえらいことですが、何ヶ月もお風呂に入っていなくて、体中がシラミだらけになるという描写の方が自分には強烈でした。教訓、シラミがわいたら服を煮沸!

 

 

 

 

ザップ・ガン/フィリップ・K・ディック

ザップ・ガン (創元SF文庫)

東西両陣営に分かれて新型兵器開発競争をしている人類。トランスによりインスピレーションを得る兵器ファッション・デザイナーが主人公。しかし開発された兵器は、実戦で活用するわけでもなく、政府がCGを駆使して作ったプロモーションビデオを見て、パーサップス(ピュア+サップスでアホな愚民と皮肉が強烈ぅ)は満足。実際は殺傷能力なしの暗黙の了解でのなれ合いだった。そこにエイリアンが地球を襲撃しに訪れ、本当に地球が大ピンチ…という話。

この対エイリアンに向けて東西の兵器ファッション・デザイナーが力を合わせ、究極兵器ザップ・ガンを開発するぞ!という流れなんですが、思いもよらない兵器で、「そうくるか!」と意外性にやられました。確かにある意味「世界をぶっとばす」兵器ですね。ディックの中でもかなりのトンデモSFなんじゃないかなー。多分最後まで考えてなくて書き進めているね、まるで宮崎駿作品のようだ。いつものことですが。

兵器ファッションデザイナーという職業、女に惚れやすく情緒不安定でグダグダな主人公、薬でトランス!生まれた兵器のお茶目さなど憎めません、全体像は軍拡競争のSF的風刺ですが読みやすかったし、ガジェットがたくさんで面白かったです。
特に、主人公のエロい愛人と、どんな質問にも答えてくれる人工万能知能体のオーヴィルくんが最高だ!

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実況中継 トランプのアメリカ征服 言霊USA2017/町山智浩

実況中継 トランプのアメリカ征服 言霊USA2017 (文春e-book)

 

珍しく発売当日に本屋でゲットした町山さんの新刊。週刊文春連載の「言霊USA」単行本第5弾で、2016年3月〜2017年2月までの連載まとめ。前半はヒラリー勝利確定な雰囲気だったトランプ前の世界のビフォアー、そしてまさかのトランプ大統領誕生しちゃったトランプ後の世界のアフター。合間のコラムで「トランプの解体新書」「トランプ王国へようこそ」「史上最低の大統領就任式に潜入せり」とより詳しく状況を解説してくれていて、読み応えのある内容でした。就任式のニコ動生中継は見逃したので、まとめてくれていて良かった。澤井健氏のトランプ似顔絵がどんどん上手くなっていく。

トランプ大統領の「黒幕」ということで、スティーブ・バノン氏がトランプ氏を操っている表紙絵ですが、この本を読んでいる最中になんとバノン氏が解任されて、直後にシリア攻撃に東アジアへの原子力空母派遣。展開が早すぎてすっごく頭がクラクラします。

ポスト真実Post-Truth
今や、ただひとつの真実などなく、誰もが自分の信じたい「真実」だけを信じる時代になった。