夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

実況中継 トランプのアメリカ征服 言霊USA2017/町山智浩

実況中継 トランプのアメリカ征服 言霊USA2017 (文春e-book)

 

珍しく発売当日に本屋でゲットした町山さんの新刊。週刊文春連載の「言霊USA」単行本第5弾で、2016年3月〜2017年2月までの連載まとめ。前半はヒラリー勝利確定な雰囲気だったトランプ前の世界のビフォアー、そしてまさかのトランプ大統領誕生しちゃったトランプ後の世界のアフター。合間のコラムで「トランプの解体新書」「トランプ王国へようこそ」「史上最低の大統領就任式に潜入せり」とより詳しく状況を解説してくれていて、読み応えのある内容でした。就任式のニコ動生中継は見逃したので、まとめてくれていて良かった。澤井健氏のトランプ似顔絵がどんどん上手くなっていく。

トランプ大統領の「黒幕」ということで、スティーブ・バノン氏がトランプ氏を操っている表紙絵ですが、この本を読んでいる最中になんとバノン氏が解任されて、直後にシリア攻撃に東アジアへの原子力空母派遣。展開が早すぎてすっごく頭がクラクラします。

ポスト真実Post-Truth
今や、ただひとつの真実などなく、誰もが自分の信じたい「真実」だけを信じる時代になった。

 

時間のないホテル/ウィル・ワイルズ

時間のないホテル (創元海外SF叢書)

 

 家族旅行だとそんなに利用する機会もないので、あんまりかかわりがないビジネスホテルですが、「時間のないホテル」は世界中にチェーンを展開するビジネスホテルに閉じ込められる話。幻想小説でSFホラー。

チェーンホテル「ウェイ・イン」は、国際見本市が行われるコンベンションセンターに併設されていて、主人公はそのフェアに代理出席することを生業とするビジネスマン。前半はこの画一的で快適なホテルが不気味に描写されるし、主人公も他のフェア参加者も、その場限りのお付き合いでぺらぺらでイヤな感じ。

後半はそのホテルからの脱出劇です。この出られそうで出られない状況は、映画「CUBE」とか、ゲーム女神転生のペルソナを思い出しました。合間に主人公とホテルにまつわる幼い頃の思い出も入ってきて、上手い描き方だなぁと感心。

ホテルの「御持て成し」が、おもてなし→うらばかりになっていて怖かった。

 

無限の書/G・ウィロー・ウィルソン

無限の書 (創元海外SF叢書)

 

昨日に続き一気に更新していますが、娘の春休みが終了したのでようやくブログ更新できるからなのです。書いているときに後ろからチラチラ見られると気恥ずかしいのですよ。あと、図書館返却日が迫っていて一気読みしているのもあります。今回は調子にのって借りすぎた…。

さて東京創元社新刊の「無限の書」です。表紙絵を見たときに重たそうな内容かしらとかまえてしまったけれど、作者はマーベルコミックの原作者でもあるらしく、ライトノベル感覚なところもありました。ようするにキャラ立ちしていて読みやすい。

サイバーパンクアラビアンナイトの融合。中東の”シティ”と呼ばれる某専制国家を舞台に、謎の古写本を入手したハッカー青年が、政府の検閲官から逃れるため、異界をさまよいつつ本の秘密に迫るーというお話。

ひるね姫」も魔法=プログラムの世界でしたが、こちらも同じく。読みながらリンクしているなぁと思ったものです。

そして表現がコンピュータ用語だったりするとこも面白い。

例えば、”心破れて死にそうになっている”を「世界のパラメーターが不調だ。プロセス速度が鈍くなっている」と表したり。そんなところがツボにはまりました。

作者はアメリカ生まれでイスラム教に改宗し、エジプト人と結婚した女性作家さんで、イスラム教の風習や戒律も多く出てきて、そちらも興味深い内容でした。

特に登場人物の一人、モスクの長老が言うセリフ

「石油ですよ」長老は首をふった。「われわれを滅ぼすだろうと預言者が予見したもうた、地下に埋もれた大いなる呪われた富です。それと、国家という概念ーなんと恐ろしい。世界の中でもこの地域はそうした形で機能するようにはできていないのです。あまりにも多くの言語があり、あまりにも多くの種族がいる。人々を動かすあまりにも強い動機の背後にある数々の思想を、踵の高い靴を履いているパリの地図製作者立ちは全く理解することができませんでした。いまも理解していませんし、これからも理解することはないでしょう。神よ、彼らを救いたまえー」

本篇とはあまり関係ない箇所ですが、中東が不安定な理由ってまさにこれですよね。 

ひるね姫

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「009」以外はだいたい見ているはず、神山監督新作「ひるね姫」観に行っていきました。

観る前にチェックしたYahoo!映画の評価がぼろくそで、そんなに散々な出来なのか不安になってしまいましたが、そんなこともなく、背景も綺麗だし、ディティールが細部まで描き込んでいて、キャラがめっちゃ動く。これだけでもう大スクリーンで見られて大満足です。夢と現実を行き交う物語なので、これはあれのメタファーかしらとあれこれ想像するのがとても楽しい。特にSNSの炎上と拡散の表現が面白かった。「鬼」のメタファーは「事故」だと思ったんですが、エンシェンの名前の由来がありそうでなさそうでモヤモヤしています。炎(エン)神(シェン)か猿神かな?エンジンをもじっているのかな。

そしてなによりも主役の女子高生ココネの声がすばらしい。高畑充希のゆっくり、まったりした岡山弁がたまらんのです。甲高くて、早口のアニメ声が苦手なので高畑充希ほんと良かった、ココネの声をまた聞きたいだけでも、もう一度見たくなりました。

車の自動運転、VRヘッドセットに東京オリンピックと、ちょっと先の未来がわくわくします。後半せっかく東京に行ったのに、あんまりオリンピックで盛り上がってなさそうでしたね(笑)。新幹線とか檄混みだと思うんだけど。

パーマー・エルドリッチの三つの聖痕/フィリップ・K・ディック

パーマー・エルドリッチの三つの聖痕

 

ついにディックの円熟期作品にたどりついたー。ディック山の折り返し地点到達。

異常気象により灼熱状態の地球から、太陽系の他の惑星に強制移民させられた人びとは、あまりにも不毛な土地に絶望し、ドラッグにのめりこんで現実逃避をしているという設定。俺たちがこの未知なる惑星を開拓するぜーというような、フロンティア精神が最初からないという。毎度の事ながらいやな未来。

そのシュア100%のドラッグ「キャンD」に対して、実業家のパーマー・エルドリッチが持ち込んだ地球外のドラッグ「チューZ」が登場、この新作ドラッグは摂取者の時間と空間を侵食し、ぼろぼろにさせていく。

チューZでトリップして悪夢→やっと目覚めたと思ったらまだ悪夢の中という無限地獄がなんども描かれて、読んでいて酔いました。主人公もメイヤスンなのかレオなのか、どっちかわかんない。なんというか、酔ったまま読み終わってしまって、肝心なところを読み飛ばしてしまった気がします。そのうち再読しよう。