夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

地球の長い午後/ブライアン・W・オールディス

地球の長い午後 (ハヤカワ文庫 SF 224)

 


これから数十億年後の未来は、次第に太陽が膨張し始め、地球上の水分は蒸発し、砂漠化するかもと言われているそうです。子どもの頃に本でこの事実を知って、怖いけど私の生涯に関係なし、でも怖いという不思議な気持ちになりました。

この物語は遠い未来、太陽が膨張し始めた結果、地球には激しい太陽光と放射線が降り注ぐようになり、地球の自転は止まり、植物は異常な進化を遂げて地上を覆い尽くして、人類は1/5ほどのサイズに縮むという設定。放射線あびると大きくなったり小さくなったりホントにするのかな?

そして生き延びた人類は、ジャングルの樹木の上で猿のように群をつくってひっそりと暮らしています。木上生活に逆戻りしてしまうのですね。

風の谷のナウシカの元ネタという話を聞いたので読んでみましたが、菌や胞子の腐海が巨大なジャングルになった感じ。ナウシカの「森の人」というよりは、ターザンに近いかも。獰猛な植物と虫たちの攻撃をかわしながらのサバイバル、登場人物もどんどん死んでいきます。平均寿命がとにかく短い。

どこまでも飛んでいく綿毛系の植物とか、月まで届く長い植物など、途方もない世界観は面白かった。主人公はキノコに脳みそを乗っ取られかけている少年ジャンプ系の猪突猛進な少年で、防御のために木の実を着ています。寝るときは木の実が邪魔でうつぶせになれません。想像するとこんなん?

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この少年を含む人間関係がいまいちのれなくて、惜しいなと思いました。

謎の独立国家ソマリランド/高野秀行

謎の独立国家ソマリランド

 アフリカ大陸北東部、アフリカの角と呼ばれる地域に位置するソマリアは、現在、壮絶「北斗の拳」状態の戦国南部ソマリアと、海賊プントランドと、奇跡のハイブリッド民主主義国家の「ラピュタソマリランドにわかれている。なぜ内戦が続く不安定な地に、突如平和な国が誕生したのか、その謎にせまる探検家高野秀行氏のルポ。

ソマリランドのソマリ人は、覚醒作用を持つ植物「カート」を常食?していますが、密着取材なので、高野氏もカートを食べまくる「カート宴会」に毎晩参加して、一緒にアッパーになりながら氏族体系やなぜソマリランドが民主主義化に成功し、平和が維持できるのかを教えてもらいます。翌日はカートの副作用で超ダウナーになり、猛烈な便秘に苦しみながら…体張っててすごいです。

続いて護衛兵士を雇い、海賊国家プントランドに乗り込み取材。平和なソマリランドと違い、殺伐とした海賊の国では、行く先々で安全のために湯水のようにお金が消えていく。これで本が売れなかったらどうするんだと思い詰めた高野氏は、海賊を雇って身代金誘拐現場を動画撮影する場合、なんと500万円ほどの予算でできてしまうことを教えてもらう。この見積もりをとることで、なぜソマリア沖の海賊による犯罪が後をたたないのかの謎が解けてる。またまたすごい!

そしてついにウォーロード(武将)達とイスラム原理主義組織が千日戦争をしている本国ソマリアに突入。首都モガディシュはテロが日常。ここで、映画「ブラックホーク・ダウン」が描いた1993年のモガディシュの戦闘など、ソマリアの近代史がわかります。

再びソマリランドに向かい、地元のテレビ局のバックアップをうけながら、族長にインタビュー。ソマリランドのハイブリッド民主主義もとてもよく考えられていて感心。血で血を洗う歴史から、ようやく生み出された自称「国家」(まだ国連から正式に認められてない)。押しつけの政府でなく、自分たち遊牧民の郷土風習にあった政治体制を作れていて、正直うらやましい。

ここまでで十分に面白く充実した内容でしたが、最後の後日談で、また2回ほどソマリランドに行く高野氏。カート中毒になってしまったんじゃと思いきや、再取材中のモガディシュで、最前線の戦闘に巻き込まれ、搭乗した装甲車に実弾が当たりまくるという激しさ。その話もっと詳しく!というかそれでもう1冊続編書いてよと思うほど。本人はこりずに「これで本物のディアスポラ(海外在住のソマリ人)になれた」と喜んでいるのがさすがです。

この本は、数年前にHONZで話題になっていて、ものすごく気になってはいたのですが、何よりも本の厚さにおののいてしまいスルーしていました。ただいま出勤しなければならない仕事がお休みなので、分厚い本もチャレンジできるという読書天国状態。

1週間かけて読み終えて、面白かったけどもっと早くに読めば良かったなぁと後悔したのは、アフリカやイスラムの情勢なんて毎年激変するから。ソマリランドの今はどうなっているのか気になりました。

 

シェル・コレクター/アンソニー・ドーア

シェル・コレクター (新潮クレスト・ブックス)

 

アンソニー・ドーアの処女短篇集。確かに文体のリズム感や、その場にいるような感覚におちいる情景描写は最新作「すべての見えない光」のほうが優っていますが(当たり前)、この短篇集を20代の若さで!という、繊細な物語を綴る力に恐れ入りました。傷ついた心をゆっくりと自然の中で回復していくような話ばかりで、温かい気持ちになれました。ムーアの物語には、「窓辺に貝殻を並べる」シーンって、結構出てきますね。あと釣りも。いいね、魚釣り。

 

「ハンターの妻」「ムコンド」
どちらも真逆な仕事をする夫婦の話。すれ違いが続き、逃げ出してしまう妻が読んでいて苦しかったけれど、のちに距離をおくからこそお互いの愛に気がつく。

 

「世話係」
アフリカの内戦からアメリカに逃れてきた黒人が、浜に打ち上げられて死んだ鯨の心臓を埋めたり、森に菜園を作ったりすることで救われる物語。最初の内戦の描写が激しかったこともあるけれど、これが一番心に響きました。

 

シェル・コレクター」表題作は、アフリカの孤島で貝を拾い集める盲目の老貝類学者のお話。世捨て人が、あるきっかけで世界中の注目を浴びる羽目に。

この舞台が沖縄の孤島になり、老貝類学者がリリー・フランキーという日本映画が昨年公開してたなんて知らなかったよ。沖縄であんなに砂浜近くに住んでいたら台風で流されるのでは?っていうか奇病?貝と女の組合せはエロい。うーん、アート系な感じにいきすぎてしまったような気がします。

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ボタンの整理

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ブログタイトルに針仕事と入れておきながら、大分ご無沙汰な針仕事ですが、たまりにたまったボタンを整理しています。

自分や家族の服を処分するときに、とって瓶に貯めているボタン。そんなのとっといてどうすんだとは思うのですが、亡くなった祖母がやっていたのを、幼い頃から見てきたので無意識にしてしまうのです。いやまあ、それでも結構使い道あるよ、ボタン。

今回は、これも大量にあるDM、美術館やギャラリー、カフェや本屋などで「ご自由にお持ち帰り下さい」なんて書いてあると、ついもらってしまうお知らせのポストカードを10×10㎝にカットして、ボタンを縫い付けていくのです。テレビを見ながらの手仕事。超楽しい!

「何をしているの?」と聞いてくる娘に話したら、「何それ超楽しそう!」と共感してくれました。血筋だ…祖母から伝わる「コレクション」魂なんだな。しかもお宝な価値は一切なし。

メアリと巨人/フィリップ・K・ディック

メアリと巨人

ディック初期の<普通>小説。そう、これには他惑星に移住とか、タイムマシーンとか、偽世界なんてモチーフは出てこないんです。二十歳の女の子とレコード屋のおっちゃんの恋の物語!

ディックの小説で女の子が主人公ってのも珍しいし、大体が会話文で進んで行くのも、そんなのも書いてたんだなーと意外でした。

古本屋で見つけて購入したのですが、買うときに店主に「文庫になっていない珍書ですね」と話しかけたら、「まぁ、文庫になる必要もないアレだから…」なんて言われてしまった。もはやコレクターズアイテムか。

主人公のメアリアンは自意識過剰で、不安定でわがままで奔放な女の子。そして真面目なフィアンセ君やレコード屋のシリング、バーで歌う歌手やミュージシャンなど、さまざまな男を振り回しまくるという青春物語。危なっかしくて痛いメアリアンもさながら、お金はポンポン出すけど、若い女の子にどう接すればいいのかわからないシリングにもあきれます。けれど狭い世界観の田舎から大都会に出たいメアリアンの気持ちもわかるし、現実に苛つくのもわかる。色々と自分の二十歳を思い出すわけです。いや、ここまで自意識過剰じゃなかったけどさ。何か一つのことでも成し遂げた達成感の積み重ねしか、人は成長しないのかも。

もっとも、ずっと年上のシリングには、これ以上メアリアンに近づくことはできないだろう。自分がメアリアンを愛していることも、他の連中が愛していることも、そんなことは何の役にも立たない。あの子に必要なのは成功だ。