夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

アイの物語/山本弘

10代の頃は雑誌「ファンロード」での面白ネタ投稿を楽しみ、ゲーム創作集団グループSNEソード・ワールドライトノベルを読み漁り、SFの大海を泳ぐ道標としてSFガイド本でもお世話になり、SF小説でも楽しませてくれた、心はいつも15才♡山本弘氏の訃報を知って喪失感が半端ないです。68歳早すぎる。

『アイの物語』は、アンドロイドが少年に話を読み聞かせる設定で、著者の過去作短篇を繋げていく仕組み。アンドロイドやAIを扱った過去作はライトノベルなのかティーンズの話が多く、美少女の女子話し言葉やオタク描写がやや鼻に付くけれど、友愛と哲学があって重層。

後半書き下ろしの「詩音が来た日」が特に良かった。老人介護をするアンドロイド〈詩音〉の話。読み終えて、あらためて最初のページに記されている妻と娘に捧ぐ序文を読み泣けてくる。山本氏の妻は看護師だったと記憶してるので、きっと妻の仕事からこの話を紡いでいったのだろう。AIと共存することを選択するSF映画『ザ・クリエイター/創造者』をもし観ていたら、とても喜んでいただろうなと思う。

ギリシャSF傑作選 ノヴァ・ヘラス/フランチェスコ・ヴァルソ, フランチェスカ・T・バルビニ他

竹書房からイスラエルSFに続く、現代ギリシャSF傑作選。アテネをテーマにというお題があったらしく、アテネの近未来SFという縛りがあるため宇宙には行かない。

近未来のギリシャの旅は、まぁまぁディストピアで気が滅入りました。でも移民、気候変動など逃れられない社会情勢を丹念に盛り込んでいて、その世界で登場人物はクールに生きているのがカッコいい。

 

◼︎ローズウィード/ヴァッソ・フリストウ

海面上昇によって水没した都市をテーマパークにしてツアー組んで稼ぐんじゃあ!という話。うん、たくましく生きたい。


◼︎社会工学/コスタス・ハリトス

ギリシャの区画ごとにナビゲーターのAR(拡張現実)が配置されているのが面白い。大天使ガブリエルとか梟とか。

 

◼︎人間都市アテネイオナ・ブラゾプル

「人間は都市の束縛から解き放たれた」人文主義経済社会。都市は移民を受け入れて労働力を安く酷使するだけ。

 

◼︎バグダッド・スクエア/ミカリス・マノリオス

VR(仮想現実)で不倫…うーん。

 

◼︎蜜蜂の問題/イアニス・パパドプルス&スタマティス・スタマティス・スタマトプロス

私は果樹農地が多い雪国にいるので、この気候変動でミツバチがいなくなって受粉がうまくいかず大変なことになっているのはよくわかる。ミツバチの代わりにドローンを動かす話。ギリシャSFは話のオチとかドラマより、設定、目の付け所がいいのよね。


◼︎T2/ケリー・セオドラコプル

列車に乗って妊娠検診に行くだけの話なのに、格差社会ひどい。


◼︎われらが仕える者/エヴゲニア・トリアンダフィル

11の短編の中で、一番人物の心理が情緒的に描かれていた。夏の観光地の話。


◼︎アバコス/リナ・テオドル

インタビュー形式の短い短編。圧縮宇宙食のような製剤ですけど、脳内再生では素敵な食事環境、味覚をご用意していますよ〜という話。


◼︎いにしえの疾病/ディミトラ・ニコライドウ

不老不死というか長命種になってしまった人類にとって、一般的な老衰への恐怖を描いている話。ミステリー仕立て


◼︎アンドロイド娼婦は涙を流せない/ナタリア・テオドリドゥ

アンドロイド娼婦の体に現れる真珠層?がいまいちよくわからなかった。


◼︎わたしを規定する色/スタマティス・スタマトプロス

戦争によって色彩が失われた世界。

レインボーズ・エンド/ヴァーナー・ヴィンジ

3月20日SF小説家・数学者のヴァーナー・ヴィンジが死去。サイバースペース・技術的特異点(シンギュラリティ)を世に広めた偉大なSF作家です。高評価されている蜘蛛型異星人の三部作も積読棚に待機していますが、ウェアラブル・コンピューティングを描いた2006年作の『レインボーズ・エンド』を読みました。

20年後の未来には普及しているかもね!というITネタを壮大に盛り込んだ本作。シンギュラリティとかAIなどが巷に出回っていなかった頃(2009年)の翻訳とはいえ、とにかくITカタカナ用語が多すぎてその都度ググって、かつ登場人物が多いのに人名も一貫性がないので、うぎゃー!と投げ出したくなるほど読みにくい。自分にとって赤尾秀子の翻訳は高確率で迷子になりやすい気がする。赤尾氏が訳したユーン・ハ・リーとアン・レッキーの叛逆航路シリーズは読むのに覚悟がいるなと震える。(積読棚にある…)

エピファニー]と[ビリーフ・サークル]の意味がさっぱりわからないまま最後まで読み進め、下巻の翻訳者以外の方の解説でようやく紹介してもらえたというのもなんだかなぁでした。[ボリウッド]はインド映画の制作地の解釈であっているのかしら。

自分の解釈があっているのか誤読なのかわからなかったので文句たらたらですが、本作はお互いにpingを打ち合うエージェント夫婦、認知症MAXだったのに医療の力で若返った爺と孫娘のSPY×FAMILYが大活躍します。そして本の自炊を食い止める図書館戦争が始まり、シンギュラリティに達したウサギは神になり?続編を書くつもりだったのか色々と未解決のままだけど、ハッピーエンドに近い爽やかな終わり方でした。

ガーンズバック変換/陸 秋槎

ヨーロッパの古典文学から吟遊詩人、神話に異常論文、ゲームに香川の女子高生百合とAI、なんと知識人で引き出しの多い作家さんなのでしょう。SFしている3作がエンタメ寄りで、それ以外は膨大な知識量を浴びせられて窒息しそうな(意識が飛んで、行読みが滑る滑る)短篇でしたが、面白かったです。

▪️開かれた世界から有限宇宙へ

ゲーム機でなくスマホのプラットフォームでゲーム世界に光と陰影のリアリティを求めたいが、メモリ消費を抑えるために光源である太陽と月を動かさない世界観を考える話。めちゃくちゃ面白かった。

▪️ガーンズバック変換

ガーンズバックとはフルメタル・パニックではなく、SF作家のHugo Gernsback氏から。発明品のテレビ眼鏡アイソレーターを見るとイメージが湧きますでしょうか。

色々と物議を醸した「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」とアニメ『電脳コイル』の素敵な融合。

 

▪️色のない緑

言語学者ノーム・チョムスキーの有名な例文「色のない緑の考えが猛烈に眠る」は、文法は成立していても語義が成立しにくい文章。そこから発展するミステリーSF。

 

 

世界SF作家会/早川書房編集部・編

 

コロナ禍で、まだワクチンがなくてステイホームを強制され不安だらけだった2020年に、SF作家を集めてオンライン会議で未来を語らせたフジテレビの企画番組『世界SF作家会議』の書籍版。

あれから4年、ウィズコロナから5類に移行され規制解除された今、読み返してみると感慨深いものがあります。まさかウクライナとガザで戦争が始まるなんて。情報が遮断されると戦争のトリガーになると語っていられたことが現実になってしまいました。悲しい。

第2回、第3回と番組を重ねていくと、コロナの不安は多少収まり楽観的になっていってた様子もみてとれました。そろそろ第4回を開いて欲しい。

多様性のハーモニーが広がっていくのか、それとも監視社会が進み皆同じのユニゾンが過剰になっていくのか、また数年後に読み返してみたいです。